ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第64回

ハクマン第64回SNSでの宣伝は不可欠だが、
「平日の夜中12時」の
ツイートとはいかがなものか。

確かに俺は起きているし見ている。何故なら無職だからだ。
しかし、日勤の方々は割と寝ていらっしゃる時間帯な気がするし、トータルで見てもツイッターに一番人がいる時間帯とは言い難い。

この「ツイッターが一番見られている時間帯」については諸説あり、この時間帯にツイートするのが本当に効果があるのかどうかは不明である。
何故なら、例え深夜2時に鍵アカのフリート(最近命日が発表された)に投稿されたものでさえ「バイト先のカレーに陰毛をふりかける」など、内容の切れ味が鋭ければ、時間や鍵すら越えて爆散されるからだ。

つまり、その時間帯にツイートするなら、私の単行本にしおり代わりの陰毛を挟むぐらいの動画をアップするべきだったんじゃないだろうか。

逆に大して拡散が期待できない無難なことしかつぶやけないのであれば、無難に人々が一番ツイッターを見ていると言われている昼食時や夕方につぶやいた方が良かったんじゃないだろうか。

確かに編集者というのは厚生年金のくせに、時間感覚が無職に似ており、午前中編集部に行ってもほぼ無人だったり、深夜にメールを出しても返事が返って来たりするのだ。
リモートワークの影響でその傾向はますます増しており、最近では盆と正月さえあまり関係なくなってきている。

ならば多少、曜日や時間の感覚が一般とズレても仕方がない。

そう思ったが、本日「今週は祝日があるので今日中に原稿をよこせ」と連絡が来た次第である。
何故盆と正月すら曖昧になってきているのに突然海の日を考慮しなければいけないのか。
盆暮れより海の日が重要なんてもはやサザン以外ありえないだろう。
しかし、こっちが働いているんだからテメーも働けと「キツい方に合わせようとする」のは日本の悪いところだ
それよりも「両方休む」の方が、お互い楽できていいに決まっている。

よって一瞬メールを無視して湘南に夏を抱きしめに行ってやろうかと思ったが、今これを書いているあたり「マジメ」としか言いようがない。

ともかく宣伝というのも、自分が出来る時にやる、ではなく宣伝される側の立場にならないと、やっても無意味な場合が多い。
企業広告が炎上するのも「見る側とあまりにも感覚がかけはなれすぎている」ことが原因なケースも多い。

つぶやく時間帯も、見る人が多い時間帯にした方がいいのはもちろんだが、1回ではなく様々なライフスタイルの人に合わせ、同じ内容でも時間を空けてまたつぶやくぐらいの方が親切だ。

また「○日に単行本が発売します」という文字情報だけでは、最初から買うつもりの人間に対するアラームにはなっても、「発売日がバアちゃんの命日と同じだから買おう」とはなかなかならないので新規読者獲得は難しい。

最低でも表紙ぐらいは一緒に載せるべきだが、それも「表紙がとにかくエロい」「表紙の男は何故無表情で隣に座るオジサンの口におむすびを詰め込み続けているのか」など、読者に中身を確かめずにいられなくさせるような強い絵でないとなかなか購読までいかない。

そんな奇跡の一枚を描くより、正直「中身を見せる」方が早いし、読者もわかりやすいのである。

 
次回更新予定日
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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