週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.13 吉見書店竜南店 柳下博幸さん
あなたは幽霊の存在を信じますか?
幽霊がいるかいないかではなく、幽霊を信じるか信じないかのお話。
私は、もちろん幽霊はいないとは思っています。独身時代に過ごした貸家を転勤の為退去する際に挨拶に伺った大家さんから「あら、そう引っ越すのね。…やっぱり出たの?おばあちゃん?」いやいやいや、なにその話!ぐらいにはいないと思っています。ただ、信じるか信じないかで言えば「信じたい」そう思います。
無念を残しこの世から去ることになった時、はたして自分は幽霊として残るだろうか。
人生の折り返し地点を回るどころかゴールが見えるあたりで転職。同じタイミングで長く闘病中だった父が他界。生活の為に噂の某倉庫に潜入したり、トーキョーのど真ん中の本屋で働いてみたり転々と。そんな波乱万丈の人生に巻き込んでしまった奥さんと猫7匹。その存在を残してこの世から消えるわけにはいかない。そう、幽霊になってでも残りたい。今はご縁があって招かれたここ静岡で単身赴任中。早く静岡に馴染むためにも今回は静岡出身の横関大さんの新作を紹介します。
『ゴースト・ポリス・ストーリー』
横関 大
講談社
渋谷署に勤める刑事・長島日樹は警察官の妹・聖奈と二人暮らし。血の繋がらない妹に恋心にも似た感情を抱えながらも捜査に没頭していたある日、帰宅途中何者かに襲われ非業の死を遂げてしまう…冒頭24ページにして主人公が死んでしまうこの作品「ゴースト・ポリス・ストーリー」しかし彼はすぐに再登場する。倒れた自分を傍観する幽霊として。
「あのね、幽霊にもルールがあるの。だいたい7つくらい」
個性豊かな登場人物に幽霊を縛る7つのルール。幽霊となった日樹は戸惑い、彷徨いながら幽霊仲間(?)の助けも借りて、事件の真相を追い求める。
程よく塩梅されたこのルールの縛りがスパイスとなってグイグイ読み進められる。
兄を殺した犯人を捜すために刑事になる妹。幽霊となって妹を見守る兄。
意思の疎通は出来ないものの互いが大事に思いあう。
自分が大事に思う存在を残してしまった無念がその場にとどまらせる。
「愛の深さ」
そう考えれば幽霊の存在を信じてみたくなる。
GPSが無くても相手の位置情報を辿れる幽霊のメリット(?)を活かし犯罪の裏側を明かしてゆく爽快感と、手の届く所にいるのに人間界には介入できないもどかしさ。
妹は兄の無念と疑惑を晴らすことは出来るのか?
笑いあり涙ありのユーモアミステリー。
「幽霊」
こんな存在だったらアリなのかな。
幽霊じゃないけれど、遠く離れていても見守っているよ。
あわせて読みたい本
『幽霊刑事』
有栖川有栖
幻冬舎文庫
幽霊となった刑事が事件の真相に迫るといえばこの作品も。幽霊刑事の相棒となるのは祖母がイタコだった霊媒体質の刑事!本格ミステリーでありながらユーモアあり恋愛あり感動ありのゴースト・ポリス・ストーリー。
おすすめの小学館文庫
『サカナとヤクザ』
鈴木智彦
小学館文庫
日本人が食べている海産物の大半が密漁品だった。その実態を調べるために著者は築地から全国に密漁を求めて潜入取材を行う。知人の現役漁師に聞くと「ヤクザ?そんなのより一番厄介なのは普通の人。サザエを採ってバレたら捨てて逃げちゃう」密漁の真実は海より深い闇にあるのかもしれない。
(2021年10月14日)