『残月記』小田雅久仁/著▷「2022年本屋大賞」ノミネート作を担当編集者が全力PR
夜空に昇る月は、もう同じではない
『残月記』の著者、小田雅久仁さんと初めてお目にかかったのは2013年9月のことでした。前年に刊行された『本にだって雄と雌があります』が、小田作品との初めての出合いです。奇想天外な世界と、言葉を尽くした独自のユーモアセンスにすっかり痺れました。『本にだって~』の刊行後、各小説誌に発表された短編も目を瞠る素晴らしさで、ならばそうした短編を一つのテーマでまとめて読んでみたいと思い、小田さんには連作短編のご依頼をしました。ただ小田さんは、連作という形式が読むのも書くのも苦手とのことで、その後にご提案いただいたのが、内容に繋がりのない「月火水木金土日」の各文字をテーマにした7編でした。
そう、第1話「そして月がふりかえる」の「月」はここから来ています。ただし、原稿用紙80枚でご依頼したところ、お待ちすること2年、2015年秋に届いた原稿はなんと140枚。そこで小田さんとご相談して「月」だけにテーマを絞り、他に2編書いていただくことになりました。ですので、もし最初にいただいた原稿が規定枚数内でしたら、『残月記』は生まれていなかったかもしれません。こうして本屋大賞にまでノミネートされた今となっては、原稿を無理に削っていただかなくてよかったとつくづく思います。そもそも、削ることを跳ね返す強固に創り上げられた世界が、そこにはすでにあったのですが。
続いていただいたのが第2話の「月景石」で、こちらはさらに増えて180枚。最終話の「残月記」に至っては400枚以上になりました。枚数とともに内容も凄みを増していき、特に最終話をいただいた日のことは強烈に印象に残っています。朝、まだ2人しか出社していない編集部で一気に読み終え、「凄いもの、読んじゃった……」と、向かいに座る後輩に呟いておりました。しばらく読後の余韻に引きずられて、席を立てなかったほどです。
最終話を仕上げたあと小田さんは体調を崩されてしまい、書籍化に際して全話の原稿を見直していただくまでに2年ほどが経っていました。その間、会社のパソコンのデスクトップにはずっと『残月記』の企画書があり、あとは刊行日だけ入れて会社に提出するばかりとなっていました。2021年に入り、小田さんからお仕事を再開するご連絡をいただいたときには、いよいよ始動!と武者震いを覚えたものです。今はとにかく、この作品をたくさんの方にお届けできることが嬉しくてなりません。
本を閉じた後、もう夜空に昇る月は同じものには見えません。未知の感覚を、ぜひ皆様にも味わっていただきたいです。
──双葉社 文芸出版部 反町有里
2022年本屋大賞ノミネート
『残月記』
著/小田雅久仁
双葉社
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