思い出の味 ◈ 小川紗良

第52回

「色とりどりの餅」

思い出の味 ◈ 小川紗良

 我が家に冬を告げるのは、大量の餅だった。鹿児島のじいちゃん・ばあちゃんお手製の丸餅が、クール便でゴロゴロとやってくる。両親共働きで私は鍵っ子だったので、冷凍の餅は放課後の小腹を自分で満たすのに打ってつけだった。レンジで少し柔らかくなる程度に解凍し、トースターでぷっくり膨らませて焦げ目をつける。砂糖醤油に浸して海苔で巻いたり、きな粉をまぶすなどして頬張れば、たちまち豊かな弾力が口の中で踊る。

 幼い頃はシンプルな白餅と、その中に甘い餡の詰まったあんこ餅が定番だったと記憶している。しかしじいちゃん・ばあちゃんの餅作りに拍車がかかり、次第にそのレパートリーは増えていった。生地によもぎの葉っぱを練り込んだ草色のよもぎ餅。さつまいもを練り込んだ飴色のこっぱ餅。鶯色の餡が詰まった餅には「ずんだ」と書かれていたけれど、食べてみればその餡の正体はグリーンピースでたまげた。自称ずんだ餅は一見普通のあんこ餅と見分けがつかず、食べるときはいつも「ずんだ」か「あんこ」かの賭け事だった。飴色のこっぱ餅が初めて我が家に来たときの衝撃はすさまじく、「こんなに美味しい餅があったなんて!」とすぐさま報告したところ、翌年からこっぱ餅の割合が増えた。しかし何年も食べ続けていると、結局シンプルな白餅が一番という結論にたどり着き、「やっぱり白餅を増やしてほしい」と電話で告げる。それでもじいちゃん・ばあちゃんの中で定着した「紗良はこっぱ餅が好き」というイメージはなかなか覆らず、しばらくその比率は変わらなかった。いずれにせよ、じいちゃん・ばあちゃんの作る餅はどれも美味しく、クリエイティブで、私の心身を色とりどりに満たしてくれた。

 じいちゃん・ばあちゃんは相変わらず田舎でのどかに暮らしているが、それなりに年を取り、私もその分大人になって、実家を離れた今の我が家にあの丸餅は届かない。度々スーパーで買った四角い切り餅で冬を演出してみるも、「やっぱり餅は丸がいい」と、どこか物寂しい。冷凍庫いっぱいのゴロゴロとした草色や飴色を、きっと冬が来る度に恋しく思う。

 

小川紗良(おがわ・さら)
役者、映像作家、執筆家。NHK朝の連続テレビ小説『まんぷく』などの作品で役者として活動しつつ、監督作品『海辺の金魚』はウディネ・ファーイースト映画祭などの映画祭に正式出品され、執筆した小説版『海辺の金魚』が話題になる。

〈「STORY BOX」2022年2月号掲載〉

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