今月のイチオシ本【警察小説】
犯罪捜査は二人一組が基本。オーソドックスな捜査小説は従って、相棒ものに最適であり、どういうキャラクターをつがわせるかがポイントとなる。その点、無口で武骨なタフガイと、お喋りで泣き虫な名家のお坊ちゃまという組み合わせで話題を呼んだのが、二〇〇二年に『それでも、警官は微笑う』でデビューした武本正純&潮崎哲夫のコンビだ。
シリーズものにしては珍しく寡作で、本書は第四作に当たる。相棒ものとはいっても、いろいろあって二人は現在離れ離れの身。物語は一一月末、港区芝浦のマンション前で重ねたタイヤの中に立たされた男がタイヤごと焼かれる事件が起きるところから始まる。被害者は燃焼時既に死んでおり、長時間冷凍されていたという。直ちに捜査が始まるものの、ナンバーを偽造した不審車両が見つかっただけ、ろくに手がかりもつかめぬうちに西新宿の不動産会社の前で同じような人体放火事件が発生する。被害者はその不動産会社の社員だったが、芝浦の事件と同一犯なのかもなかなかわからない。
一方その頃、東京・新宿署の留置管理課に異動となった武本警部補は西新宿で泥酔、暴力沙汰を起こし勾留された柏木という男に不審を抱いていた。泥酔していたわりにはやけに静かで落ち着いていたのだ。そんなとき武本は放火事件の捜査の応援にきた警視庁刑事総務課の潮崎警視と久しぶりに再会するが、上層部は彼が武本と組んでまた暴走するのを恐れ、捜査一課の元レスリング選手、正木星里花巡査と、警視庁の屁理屈大王こと捜査二課の宇佐見圭巡査部長というお守り役を付けていた。
実は前半の読みどころは武本&潮崎ではなく、このトリオ。武本から柏木の話を聞いた潮崎は三人で独自の捜査を進め、重要な手がかりを得る。このシリーズの特徴のひとつにコミカルな演出があるが、トリオになってもそれは変わらない。その一方で後半、犯行動機に絡んだシリアスな社会問題も立ち上がってくる。もちろん武本と若手担当官たちとの葛藤等、留置場のドラマも読ませる。今回も軽重自在な持ち味が楽しめるに違いない。