「言えない」ことと「言ってしまった」こと

『君が降る日』(島本理生著)はとにかく手に取ってもらいたい一冊です。
書店員名前
三省堂書店そごう千葉店(千葉) 矢澤真理子さん

 思っていても言わずにいること、逆に思わず言ってしまったこと……ふとした瞬間に思い出すことはありませんか? そんな気持ちに心当たりのある方にぜひお薦めしたい三冊をご用意しました。読みながら、あなたにとって大切な誰かが思い浮かんでくること必至です。

『君が降る日』島本理生

『君が降る日』
幻冬舎文庫

 素敵なタイトルと表紙が目を惹くこちらの作品は、たとえジャケ買いだとしても期待を裏切らない、むしろ予想をはるかに超える一冊です。「交通事故で彼氏を失った女性が、いけないと分かっているのに事故を起こした男性に惹かれてしまう」、もうこれだけで紹介は十分、あとは本文を読んでください、と言い切りたいくらい、とにかくまず手に取っていただければと思います。忘れなきゃいけない恋心、好きになってはいけない人を思う気持ち……そんな「言ってはいけない好き」に胸を締め付けられますが、自分の中で消化できたとき、ふっと風が通り抜けるような気分になることでしょう。

『君に言えなかったこと』こざわたまこ

『君に言えなかったこと』
祥伝社

 六つの短篇からなる一冊です。口に出さなかったことは、なぜか心に残り続けるような気がします。言ったら何か変わったかも、と思いつつ、「その後」の世界が決して訪れないと悟っているからでしょうか。六篇すべて異なる状況、判断の結果「言わない」選択をするのですが、その言葉を抱えたまま前に進んでいく姿に、きっと自分自身が重なるはずです(「君に贈る言葉」はちょうど結婚を控えた友人がいたため、頷きながら読みました。言わない思いをすべて詰め込んだ「おめでとう」は友情の証かもしれません)。

『本屋のワラシさま』霜月りつ

『本屋のワラシさま』
ハヤカワ文庫

 一方、最後に紹介する一冊には、あることを「言ってしまった」が故に本を読めなくなってしまい、勤め先も辞めた主人公が登場します。この作品に欠かせないのが座敷童子のお人形さん。本を読むこと、可愛い格好をすること、そして何より舞台となる商店街にある小さな書店(と、その店主)が大好きなワラシちゃんに夢中になること間違いなしです。仕事柄、この話のようにお客様に本をお薦めすることがありますが、「あの本、気に入っていただけたかな」と日々思い出しております。そんな書店員の気持ちも知っていただけたら幸いです。

〈「きらら」2019年9月号掲載〉
 
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