土屋うさぎさん『謎の香りはパン屋から2』*PickUPインタビュー*

土屋うさぎさん『謎の香りはパン屋から2』*PickUPインタビュー*
 第23回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞し、ベストセラーとなった土屋うさぎさんの『謎の香りはパン屋から』。大阪・豊中市のパン屋でアルバイトに励む大学生の小春が遭遇する〈日常の謎〉を、香ばしいパンと絡めて描く連作集だ。待望の続篇『謎の香りはパン屋から2』も、謎とキャラクターとパンの魅力があふれる一冊となっている。
取材・文=瀧井朝世

「第1巻を書く時、読む人に不快感を与えないようにと意識しましたが、ここまで〝心温まるミステリー〟みたいな感じで受け取ってもらえるとは予想していなくて。第2巻を書くにあたっては自分の幅を見せたくなる瞬間もありましたが、1巻と同じ味を期待してくれている方々にちゃんと応えようと思いました」

 と語るのは、第23回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞した『謎の香りはパン屋から』の著者、土屋うさぎさん。同作は昨年1月に刊行されて大ヒット。そしてこの春、待望の第2弾『謎の香りはパン屋から2』が刊行された。

 大阪は豊中市にあるパン屋〈ノスティモ〉には、パン部門のブーランとケーキ部門のパティスリーがある。本シリーズの主人公、市倉小春はブーランのアルバイトだ。進学を機に東京から大阪にやってきた彼女は受賞作、つまり第1巻では大学1年生。漫画家志望で、創作のために周囲を観察する癖があり、時に見事な推理力を発揮する。彼女が〈ノスティモ〉周辺で起きるささやかな事件を解決していくのが、この「謎パン」シリーズである。土屋さん自身も東京育ちで、大学進学のため大阪に転居し、学生時代にパン店でアルバイトをしていた経験がある。パン作りの工程やバイトの仕事内容などは、その時の経験と知識が活かされている。

 聞いて驚くのは、土屋さんにとって『謎の香りはパン屋から』がはじめて書いたミステリーだったこと。土屋さんはすでに漫画家としてデビューしている(本シリーズの各章の扉ページに描かれるパンのイラストは土屋さんによるもの)。小説執筆のきっかけは、漫画の師匠でもあるおぎぬまXさんの作品が第21回『このミステリーがすごい!』大賞で最終候補に残り、受賞は逃したものの隠し玉として『爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』というタイトルの文庫で刊行されたこと。漫画家が小説を書いてもいいのだと思い、「師匠の仇を取ろうと思った」ため、自ら小説を書いて『このミス』に応募し、見事大賞を受賞したのだ。

 シリーズは現在、累計35万部突破。この反響の大きさを、どうとらえているのか。

「正直、生活の中での実感はなくて。〝小学生でも読めた〟などと言ってもらえることはあるんですけれど、ネット上でもあまり感想を見かけないので、本当に読まれているのかな……という感覚です」

 と、いたって冷静な様子。また、応募時はシリーズ化も考えていなかったという。

「続きが書けそうだという自覚はあったんですけれど、応募作で話を完結させたつもりでした。それで第2作として全然違うプロットを編集部に送ったんですが、やはり『謎パン』の続きを書きましょう、という話になって。そこから、第1作と同じ連作短篇の形式で、キャラクターの良さをさらに生かしていく話を考えていきました」

 物騒な事件が起きるわけではなく、むしろ謎が解けた時には優しい気持ちになれるこのシリーズ。各章でひとつのパンがフィーチャーされ、そのパンの豆知識が披露されるのも楽しい。

 第2巻では小春が大学2年生になってからの1年間が描かれる。第1章の「すれ違いメロンパン」では高校生の杏樹が新たなアルバイトとして登場する。先輩バイトと杏樹の間にすれ違いが生じるが、小春の推理により誤解は解かれる。なのに杏樹はアルバイトをやめると言い出す。その理由は何か。

 第2章以降では、パティスリー部門で起きたウェディングケーキ制作に関わる謎や、カツサンドキャンペーン中に店内で起きた不穏な出来事、お初天神にお参りした小春にモテ期が到来する謎(?)、さらには店長と新進気鋭のパン職人による塩パン対決などが描かれていく。

「第1章でフレッシュな新キャラを登場させつつこれまでのキャラのおさらいをして、第2章ではこの店はケーキも作っているよ、ということでパティスリー部門の話にして、第3章は新キャラを絡めて店内での話を掘り下げ、第4章はそろそろ外に行きたいなということで小春が町に出かけていく話にしました。第1巻を出す時に大阪が舞台であることをアピールして売り出してもらったので、今回もちゃんと大阪の町をピックアップしようという気持ちもありました。最後の第5章は盛り上げたくて、パーティー感を出すために対決という流れを考えました」

 話を聞くほど、設定や構造について細かく練って作られていると分かる。たとえば杏樹の存在にしても、フレッシュさを出す以外にいくつもの理由があるようだ。

「前作で関西弁の福尾さんが店を卒業してしまったので、大阪色を薄れさせないために、関西弁の子に新たに入ってほしかったんです。それに、小春の成長を描くためには後輩キャラが必要だなと考えました。なるべくパン屋ならではの話にしたいと思っていたところ、パン屋は朝が早いということは1巻であまり触れていなかったので、新キャラを早朝のバイトということにして、そこから話を作っていきました」

 また、登場させるパンの順番も考えたという。

「第2章にカツサンドを持ってくるとちょっと重たいかなと思ったり、デニッシュの次にフレンチトーストだと甘いものが続くから避けようと考えたり、読む人の胃袋のバランスを考えました(笑)。そこから使いたいパンの雑学を調べていきました。使いたいけれど豆知識が足りなくて脱落したパンもありました」

 第1章のタイトル「すれ違いメロンパン」にも表れているように、第2巻ではどの章でも、誰かと誰かのすれ違いが浮かび上がる。小春自身も、漫画家になることを反対した親とすれ違っている。

「第1巻では意識的に、漫画家志望の小春をはじめ夢を追う人たちを登場させて、それを縦軸にしました。第2巻でも、縦軸がないと盛り上がりが足りないだろうと思って。第1巻に負けない作品にしたかったので、夢という大きなテーマを引継ぎつつ、そこにすれ違いという縦軸を用意しました」

 こじれてしまった人と人との関係が、小春の謎解きによって変化を迎えていく。そんな小春自身は、母親とどう対峙するのか。そんな人間模様でも読ませるのだ。

 真面目で素直な小春だが、彼女の考える漫画のネームが毎回かなり荒唐無稽で、思わず噴き出してしまう。本人は大真面目なのだから、小春って案外天然キャラ……? と思わせる。

「小春は結構ズバズバ言ってしまうところがあるので、周囲からツッコまれる性格でお互いにいじれる関係と感じられるように意識しました。漫画のネームは大喜利の感覚で考えています(笑)。この部分が面白かったと言ってくれる人もいるので、するっと〝今回のネームはボツだった〟では終わらせずに、ちゃんと詳細を書くようにしています。今回はVチューバー〈香箱チョキミ〉の配信内容も書いたので、自分の中で大喜利を増やしてしまいました(笑)」

 パン哲学を語る店長や陽気で豪快なレナ先輩の言動もコミカルで、肩の力を抜いて楽しく読ませる。ギャグ漫画でデビューしていることもあり、笑いのセンスを磨いてきたのだろうと思いきや、ちょっと違うようだ。

「もともとギャグ漫画の部門でデビューしようと思ってはいなかったんです。おぎぬまさんがギャグ漫画を描かれていたから、じゃあ私もそこに出そう、となったのがきっかけでした。デビューしてから、笑いについて学ぼうとM-1なども見るようになりました。でもそもそも、おぎぬまさんのギャグ漫画アシスタントをしていたことで、ギャグの神髄に触れることができていたので(笑)」

 漫画だけでなく、小説についても、おぎぬまさんからアドバイスをもらった。

「たとえば、キャラクターは使い捨てではなく、その人が得するようにしないといけないと教えてもらいました。再登場させるにしても、ただ顔を出すだけじゃ意味がなく、その人が得をするようにしないといけないって。それは意識しました」

 他にはどんなことを教わったのか聞くと、

「もう、基本的なことからです。〈…〉の記号はふたつ続けるとか、会話のカギカッコの最後には〈。〉はつけないとか(笑)。私の場合、小説に関しては本当にそこからのスタートだったんです。ミステリーがどういうものなのかも全然分かっていなかったので、検討パートがあると盛り上がるよ、などと、作り方について教えてもらいました。解決編などは情報をどの順番で出すのがいいのか、いまだによく分からずに苦労しています」

 現在、小説家と漫画家、それぞれの仕事は両立できているのか。

「今は小説の割合が多いですね。〝謎パン〟の第2巻を書いている間は小説に注力していて、それを書き終えたタイミングで漫画の読み切りを一本描きました」

 その読み切りは5月に出る漫画誌『コミック百合姫』7月号に掲載予定だ。

「漫画を描きたい気持ちもありますが、やっぱりここまで応援していただけた『謎パン』を書き切ることが誠意かなと思って。今はそちらに集中している感じです」

 では今後の「謎パン」シリーズの展望についてはどうか。

「シリーズは3作目か4作目で一回区切りをつけたいなと思っています。長く続けるというよりは、ちゃんと今の読者の方たちが追えるうちにきちんと終わらせたいです。たとえば今の中学生が第1巻を読んでくれたとして、続きが10年後に出ますといっても、読みたいと思わない気がします。今読んだ人が続きを読みたいと思っているうちに完結できたらいいかなって。最後まで熱量を持って読んでもらえたら嬉しいです」

 ちなみにシリーズはイギリスの出版社から声がかかり、英語版も刊行される予定。どんな反応があるか、こちらも楽しみだ。

謎の香りはパン屋から2

『謎の香りはパン屋から2』
土屋うさぎ=著
宝島社

土屋うさぎ(つちや・うさぎ)
1998年、大阪府生まれ。漫画家、小説家。2023年、『あぁ、我らのガールズバー』で集英社・第98回赤塚賞準入選。同年、『見つけて君の好きな人』で小学館・「創作百合」漫画賞佳作。2024年、『文系のきみ、理系のあなた』で一迅社・第30回百合姫コミック大賞翡翠賞受賞。同年、第23回『このミステリーがすごい!』大賞にて大賞を受賞し、『謎の香りはパン屋から』で2025年に小説家デビュー。


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