週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.86 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん
『ケチる貴方』
石田夏穂
講談社
365日全身冷え性である。手を洗えば手先が紫色。気温が下がる朝晩は顔面蒼白。特に冬の夜は、寝る前の準備が大変だ。ヒートテックを数枚重ね着からのカイロと靴下。湯たんぽをセットし、毛布は2枚重ね。毛糸の帽子とマスクを着用しいざ就寝となる。
冷えとは戦いである。
そんな私にある驚きの作品が目にとまった。史上初!? の冷え性小説。石田夏穂先生の『ケチる貴方』だ。もう読むしかないと即決した。読んでビックリ! 小説の中に私がいた。
大共感と共に、コンプレックスについて考えさせていただいた本作。オススメ3ポイントにてご紹介させていただきたい。
オススメポイント① 主人公自身の「冷え性」への心の声がすごい!
「私の身体は自ら熱も生産しなければ与えられた熱も受け取らない意味不明の鎖国状態にある。こうした状態にどういう得があるのかは不明だ。不明というか、ないだろう。」(本文より)
パンチがきいた豊かな表現力にノックアウト! 笑ってしまった!
オススメポイント② 解消方法に驚きが止まらない!
ありとあらゆる温活の試行錯誤の末、最終的に決め手となった体質改善にビックリ! こんなにもハッピーな方法で解消できるなんてうらやましい。
私も真似してみたくなった。ぜひ、本書で確認してほしい!
オススメポイント③ コンプレックスとは何か!?
今までコンプレックスと聞くと良いイメージがなかった。しかし、本作を読んで考えが激変した。主人公が懸命に自身の冷え性と向き合い、必死に改善努力する姿に勇気をいただいた。
思い通りにいかなくても、その頑張るプロセスはものすごい力となっている。
本作を読み終えた後、自分自身を振り返ると、冷え性を改善するために何かと試行錯誤をした結果、得る物の方が大きい事に気がついた。
代謝を上げるために始めた、得意でなかった水泳、ランニング、筋トレは大好きな趣味となり、運動友達ができた。
また、あまり食べていなかった、体を温める生姜やキムチ、唐辛子は大好物となった。
そしてつい最近、職場のSさんから「まるでこたつ」という、穿くと暖かくなる魔法の靴下をいただいた。その優しさに体も心もぽかぽかになった。
冷え性で良かったと思った。
自身の悩みというものは、考えや行動次第で、もしかすると新しい自分に出逢えるチャンスなのかもしれない。本作は、変化する大切さを教えてくれた最高のコンプレックス小説。
冷え性の方、自分を変えたい方にぜひオススメしたい作品だ!
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講談社
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