【P+D文学講座】スポーツと近代詩 #2

オリンピック競技を題材にした詩集から、ストライクゾーンの詩まで!?スポーツと近代詩・後編はユニークな作品が目白押し!詩に興味がある人は必読です!

<前回のまとめ>

【P+D文学講座】は、P+Dの加勢 犬(かせい けん)先生が、23年間文学作品にはほとんど馴染みが無いというM野くんでも分かりやすいように、文学作品を楽しく読むアングルを提示するコラムです。

前回の【P+D文学講座】スポーツと近代詩 #1では、萩原朔太郎「およぐひと」と山村暮鳥「だんす」を使って、詩の中で表現された「動き」を感覚的に読むという面白さを見つけることができました。

今回はどんなスポーツを題材にした講座になるのでしょうか。

 

オリンピックとスペクタクル:村野四朗『体操詩集』

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犬:さて、次はオリンピック競技を題材にした村野四朗の『体操詩集』(1939)を読んでみよう。

 

M野:あ、俺のおじいちゃん。

 

犬:嘘つけ。

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犬: M野くんはこの詩を読んでどう思う?

 

M野:かっこいい!

 

犬:ほう。具体的にはどんな感じで「かっこいい」のかな?

 

M野:俺がすべてを表現する!このスポットライトの中には俺しかいない!っていう感じです。

 

犬:なるほど。確かに、そういう肥大的な自我はこの詩の一要素かもね。なにせ、自分が回転しているのではなくて、「地平線がきて僕に交叉る」というくらいだから。

この『体操詩集』のなかでは、実際のベルリンオリンピックの写真が用いられていたのだけど、詩の中でも会場中の注視を受けるオリンピック選手の身体をうまく言語化しているよね。

 

M野:前回のスライドにもあった、スペクタクルとしてのスポーツということですね。

 

犬:まさにその通り。アスリートと観客、さらにはそれを取り囲むメディアの関係で出来上がっている近代スポーツの特色をよく表した詩だね。

さらには、アスリートのパフォーマンスが「命令」として外界に整列を呼びかけるというこの詩の構図だけど、ベルリンオリンピックが備え持っていたプロパガンダ的側面とも相まって、どこか危うい感じもしないかい?

 

M野:ちょっとなに言ってるのかわかんないです。

 

犬:まあいいや。では、ここでクエスチョン! 次の詩はなにを題材にしているだろう?

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M野:鉄が描く世界ねえ…あ、わかった!

 

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M野:これ、電車の詩ですね!あ〜、やっぱ車かなあ。

 

犬:スポーツだよ。

 

M野:じゃあわかんないです。

 

犬:…正解のタイトルは、「鉄鎚投(ハンマー投げ)」でした。

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M野:なるほど、なんか納得しました。でも、なんでスポーツの詩なのにいちいち表現が機械的なんですか?

 

犬:山村暮鳥の「あらし」について説明した通り、20世紀のいわゆる「モダニズム詩」では有機的なイメージと、無機的なイメージが接続・衝突するようなかたちで表現されることが多いんだ。

村野四朗の『体操詩集』も、スポーツを素材にして、抒情的なものだとされていた「詩」に、無機質な「新即物主義」(※)を取り入れている新しい形態美を持った詩集だったんだよ。

 

M野:「僕には愛がない」っていう表現も、そういう無機質さの強調なんですね!

 

犬:そうだね。人体の機械性を引き立てることによって、より即物的に「動き」を観察しようとしたといえるかもしれない。

※「新即物主義」・・・第一次世界大戦後のドイツ美術界を中心として起こった芸術運動。対象への主観的・感情的な没入を廃し、冷徹な目で人物や物体の姿に迫ろうとした。

寺山修司「野球少年の憂鬱」(冒頭)

犬:では、次は寺山修司の「野球少年の憂鬱」というかなりユニークな詩の冒頭部分を読んでみよう。

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M野:これって本当に詩なんですか? 算数の問題って感じがします。「体積を求めよ」みたいな。

 

犬:その違和感はいいところを突いているね!この詩、タイトルに「野球少年の憂鬱」っていう名前はついているけれど、スポーツの悩みというよりも、むしろ図で表されているような「幾何学的抽象」と人間心理との関係を表しているんじゃないかと思うんだよね。

 

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M野:???

 

犬:「ストライクゾーン」というのは、野球のルールブック上で定義されているひとつの抽象的な空間だよね。そういう抽象的な見えないルールが、いかに人間の認識や行動に影響を及ぼしているかをユーモラスに描いた詩といえるんじゃないかな。

 

M野:う〜ん、わかるような、わからないような…

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犬:こういう現代詩は、一字一句がっつり理解しようとする前に、ぼーっと眺めるように読みながら、腑に落ちる瞬間を待つのもアリだと思うよ。

 

M野:ぼーっとねえ…

 

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M野:ぼーーっと

 

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M野:へっ、なんぼのもんじゃーい!!

 

犬:(絶対なにか別のこと考えてたな…)

 

 


後日・・・

 

M野:先生! 俺もスポーツの詩を書いてみたっス!読んでください!!!

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犬:ええっ!い、いいけど、すごい自信じゃないか。

 

M野:そりゃあもう、先生の講義内容をとことん盛り込んだ作品ですから!

 

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犬:それは嬉しいね、どれどれ…

 

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犬:・・・

 

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【次回予告】排泄は「さよなら」の挨拶!?汚物にまつわる文学理論!?第2回となるP+D文学講座は、なななんと「う●こと文学の幸福な関係」がテーマ!1月下旬の公開をお楽しみに!!

初出:P+D MAGAZINE(2016/01/13)

『見果てぬ日本 司馬遼太郎・小津安二郎・小松左京の挑戦』
『はじめての不倫学「社会問題」として考える』