星野保著の『菌世界紀行―誰も知らないきのこを追って』。珍しいきのこを求めて極地を旅する道中記。
極地や寒冷地で、苛酷な環境に耐えながら、珍しいきのこを求めて調査採集に臨む菌学者たち。
菌との念願の対面は叶うのか……?冒険談を楽しみながら学べる入門書を紹介します。
【サライブックレビュー 読む】
珍しい「雪腐病菌」を求めてシベリアや極地を旅する─
菌世界紀行 誰も知らないきのこを追って
星野保著
岩波書店(☎03・5210・4000)
1300円
菌類学者の著者の研究テーマは「雪腐病菌」。雪の下で健気に生きる植物に感染し、じわじわと植物を枯らしてしまう菌類(酵母・カビ・きのこなどの仲間)のことだ。研究を始めた1990年代でも、きのこ図鑑に殆ど掲載されていなかったというほど、世にも珍しい菌類なのである。
調査採集は当然、極地やシベリアなどの苛酷な寒冷地となる。地面に這いつくばって枯れ草を観察するので、夢中になると大型獣に襲われる。物騒だがライフル必携だ。南極海では南下するにつれ、「吠える40度、狂う50度、絶叫する60度」といわれる大荒れに見舞われ、船酔いで寝たきり状態に。ロシアでは車がすべて故障中で調査はヒッチハイク、ようやく空港に辿り着いたら航空会社が潰れて飛行機が来ない。とんでもない所に行かないと、この雪腐病菌には出会えないのだ。
学術論文には決して書けない苦労の数々を《主観的に記述》したという本書。冒険談を楽しみながら学べる入門書といえよう。□
(取材・文/住友和子)
(サライ2016年4月号より)
初出:P+D MAGAZINE(2016/04/03)