森見登美彦名言10選。『夜は短し歩けよ乙女』など

今をときめく人気&実力作家となった森見登美彦。その代表作の中から、肩の力を抜いて読みたい”脱力系名言”をご紹介します!

代表作『夜は短し歩けよ乙女』がアニメーション映画化され、201747日に全国公開となるほか、『夜行』が第156回直木賞候補作と2017年本屋大賞ノミネート作に選ばれたことからも、今をときめく人気&実力作家の1人となった森見登美彦

彼の描く作品の魅力は、なんといっても個性豊かで遊び心に満ちた言葉の数々にあります。そしてそれらは教訓めいたものではなく、むしろ気の抜けたような脱力系の名言ばかり。そんな「隙ばかりの言葉」に読者は心を掴まれているといっても過言ではありません。

そこで今回は森見登美彦の過去の代表作の中から、思わず「なるほど!」と唸ってしまう名言や、クスッと笑える迷言など、森見ワールドが存分に味わえる数々の言葉たちをご紹介します!

 

鮮烈なデビュー作!『太陽の塔』からの名言

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【名言1】

“何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。”

森見登美彦は、そのデビュー作『太陽の塔』により「青春をこじらせたダメインテリ」を描かせたらピカイチという評価を確固たるものにしました。この作品冒頭を飾るこの名言(迷言?)は、日本の文芸界に「脱力系スター作家」が生誕した瞬間を華々しく告げる一文でもあります。

作品の内容は、とある京大生である主人公が自分をフった女の子を「観察と研究」という大義名分のもとストーキングする、というもの。書き出しからして露悪的な開き直りの匂いがプンプンと漂っていますが、青春とはそもそも「根拠のない全能感」と、それを裏切る「トホホな顛末」のオンパレードだと考えれば、この一文にはそんな青春のエッセンスが凝縮されていると言えます。

 

【名言2】

“「酒は百薬の長」と浮かれるつもりなら、居酒屋の階段に誤爆した反吐を自分ですすりこむぐらいの覚悟があってしかるべきであろう。”

 

森見登美彦は、P+D MAGAZINEが行った過去のインタビューの中でも、ファンタジー作家として大切にしているモチーフのひとつとして「宴会(酔っぱらっている状態)」をあげています。まさに、お酒は森見作品において現実の向こう側へと誘うきっかけとして欠かせないアイテムなのです。実際に、『夜は短し歩けよ乙女』には偽電気ブランが、『有頂天家族』には赤玉ポートワインが登場し、重要な役割を果たしています。

お酒に呑まれ、見るに堪えないヘマをやらかす人物や、はたまた酔ったキャラクターが迷い込む不思議な世界を幻想的に表現させたら、森見登美彦の右に出るものはいないと言っても過言ではないでしょう。「反吐をすすりこむぐらいの覚悟を持つべき」という上のトンデモ発言ですら思わず真に受けてしまいそうなほど、文字通り私たち読者は森見作品に酔わされているのかもしれません。

過去記事:森見登美彦さん、なんでそんなに面白い小説が書けるのですか?作家生活10周年作品『夜行』を語る。

 

ダメ大学生のバイブル、『四畳半神話大系』からの名言

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【名言3】

“我々の大方の苦悩は、あり得べき別の人生を夢想することから始まる。自分の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根元だ。今ここにある君以外、ほかの何者にもなれない自分を認めなくてはいけない。”

 

期待に胸を膨らませていたものの、現実は甘くなかった……もしも「こうだったら」、「こうしていれば」とあらゆる可能性を想像したことは、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。『四畳半神話大系』は、冴えない大学3年生の主人公である“私”がバラ色のキャンパスライフを獲得する可能性を、パラレルワールド的に描いた作品です。

暇を持て余しがちの大学生は自分の可能性を信じ、ときに迷走してしまうもの。“私”もそんな大学生の1人であり、「才能を隠し通したあまり自分でも分からなくなっている」と信じています。しかし、師匠である樋口はそんな“私”に、「あえて何にもなれないこと」について、開き直るよう説きます。「何かになれるはず」とあやふやな妄想を抱くくらいなら、腰の座った阿呆になったほうが人生を有意義に過ごせる……「前向き」とも「後ろ向き」とも違う、脱力系のスタンスを新たに提示しているのです。

 

【名言4】

“不毛に過ぎた二年の遅れをがつがつとみっともなく取り返そうとしているような気分になってきた。そんないじましい己の姿は私の美学に反する。したがって私は潔く勉強をあきらめた。こういった潔さには自信がある。つまりは紳士だということだ。”

気分転換のために勉強に励もうとするものの、2年間を取り戻すべくがっついていることに気づいて潔く勉強を諦める“私”。2年間を棒に振った人間がすぐに変われるかは疑問ですが、“私”はそんな自分を「紳士」として正当化しています。

物語の冒頭でも「清く正しく紳士的に、麗しの乙女たちと付き合って行こう」と心に決めている場面がありますが、“私”には「恋」や「単位の取得」にがっつくことを「紳士的ではない」ととらえている節がありますそれはつまり、手に入らないものはいっそ潔く諦めることこそが「紳士の振る舞い」だということ。ないない尽くしの大学生が「しょーもないこと」を強気に言い張るそのギャップがなんともおかしい一文です。

 

太宰作品の新解釈、『新釈 走れメロス』からの名言

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【名言5】

“型にはめられた友情ばかりではないのだ。声高に美しき友情を賞賛して甘ったるく助け合い、相擁しているばかりが友情ではない。”

 

太宰治の代表作を現代的な解釈で蘇らせた『新釈 走れメロス』の主人公は、「邪悪に対して人一倍敏感であったが、飽きるのも人一倍早かった」アホ学生である芽野史郎。大学の暴君から学園祭のフィナーレとしてブリーフ一丁で踊る罰ゲームを課せられた芽野は、身代わりとして友人、芹名を置いていきます。原作のメロスは親友セリヌンティウスとの約束を守るためにひた走りますが、芽野は芹名を見捨てようとするのです。

芽野による友情の解釈は、「友とは、互いに信頼できる存在のことだ」というありがちな美しいイメージからはで大きく外れています。それどころか、「信頼しないことを信じる」という、およそ友情らしからぬ解釈なのでした。これまでの「美しい友情」のイメージを易々と壊していく、呆れ笑いを誘うような言葉のなかにも、なぜか新たな友情のあり方を提示するような説得力がこもっていると思いませんか?

 

なんとも「毛深い」ファンタジー、『有頂天家族』からの名言

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【名言6】

“世に蔓延する悩み事は大きく二つに分けることができる。 一つはどうでもよいこと、もう一つはどうにもならぬことである。 そして、両者は苦しむだけ損であるという点で変わりはない。”

森見登美彦自身が「毛深い子」と呼ぶ『有頂天家族』は、京都に住まう狸の一族、下鴨家をめぐるファンタジー。亡き父から「阿呆の血」を色濃く受け継いだ矢三郎は、「悩んでいるなんてもったいない」と言わんばかりに、様々なものに化ける力を好き勝手に使って面白おかしく暮らしています。

そんな矢三郎のモットーは「面白きことは良きことなり!」という身も蓋もない言葉に表されています。森見作品に度々現れる「べつに阿呆でもいいよね」と言わんばかりの、あっけらかんとした自己肯定感を色濃く反映したこの名言。ついくよくよと悩んでしまいがちなあなたも参考にしてみてはいかが?

 

これぞ「アンチ・青春」宣言!『夜は短し歩けよ乙女』からの名言

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【名言7】

“学園祭とは青春の押し売り叩き売り、いわば青春闇市なり!”

『夜は短し歩けよ乙女』にて語り手を務める“先輩”は、普段であれば「青春など唾棄すべきもの」と斜に構えた態度をとる、こじらせた大学生です。そんな“先輩”も意中の相手、黒髪の乙女が学園祭に来るとなれば話は別。なるべく彼女の目にとまる作戦、略して「ナカメ作戦」を決行しようと学園祭に顔を出すのでした。

学園祭を「阿呆の祭典」とまで言い切るこの“先輩”も、恋にかまけるサークルのメンバーを邪魔し続ける『四畳半神話大系』の“私”も、いわば「憧れのキャンパスライフ」から程遠い位置にいる存在。そんな青春をこじらせた大学生のたちのルサンチマン(注:強者や成功者への妬み)を爆発させる機会として、“リア充”たちが闊歩する学園祭はうってつけの舞台になるでしょう。自分たちには得られなかった「青春」を他人に強要するような雰囲気をシニカルに表現したこの名言に、“非リア充”な皆さんであれば思わず同意してしまうのではないでしょうか。

 

幻想をぶち壊せ!『恋文の技術』からの名言

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【名言8】

“男はふだんどんなことを考えているかというと、ろくなことを考えていない。道行く男の4割は阿呆、さらに4割は役立たず、残る2割は変態である。”

青春に対するシビアな視点を痛快に描く森見作品は、異性へ抱きがちなイメージも簡単に打ち砕いています。『恋文の技術』の主人公、教授の差し金で遠く離れた実験所に飛ばされた守田一郎は、寂しさのあまり京都に残した友人、先輩、妹へ手紙を書き始めます。その様子を書簡形式で綴ったこの作品には、守田の「ドヤ顔」や、「強がり」、「テヘペロ感」がこれでもかと詰められています。

作中で守田は妹からの男性に関する質問に対し、いち男性としての意見を述べます。それは身も蓋もない、男のリアルな姿でした。それでいて守田は「油断をすれば刺されると思え。用心を怠りなく。」と妹の身を案じるそぶりを見せるなど、兄としての一面ものぞかせています。巷にあふれる王子様幻想を鮮やかに打ち砕きながら、どこか爽やかな後味すら残るのは、森見登美彦の言葉の技術がなせる技ですね。

 

【名言9】

“そんな名言はうわっつらだけのなぐさめです。”

これまで数々の名言をご紹介しましたが、守田が家庭教師をしていたときの教え子に書いた手紙の中でこんな言葉が登場します。守田は「無駄になったラブレターの数だけ人は成長する」という一言を紹介した後、「そんなことで成長するよりも、好きな人に好きといってもらうほうが嬉しい。」とさえ言い切ります。

確かに、私たちが「名言」を求めるのは、うだうだと思い悩む自分を慰めるためでもあるでしょう。それどころではなく、私たちは巷にあふれる名言集の中の言葉を、ときにはさも自分の言葉のように扱うこともあるでしょう。しかし、この言葉にもあるように、キレイさわやかな言葉が与えてくれる「うわっつらのなぐさめ」で安心していては駄目なのかもしれません。

 

何を感じとるかはあなた次第。『夜行』からの名言

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【名言10】

“世界はつねに夜なのよ”

 

最後に、第156回直木賞候補作にもなった『夜行』から、思わずドキッとするようなセリフをご紹介。

様々な人物たちが旅行先で経験した「夜」のエピソードを持ち寄る連作短編である今作は、これまでご紹介した森見作品とは異なるミステリアスでヒンヤリとした雰囲気が魅力。ありふれた日常を送る私たちが、“向こう側の世界”と出会う「夜」というモチーフに何を感じとるかはその人次第ですが、作品の深い余韻とともに嚙みしめるにはこれ以上ない名言となっています。内容が気になる方は、こちらのインタビューをチェック!

 

おわりに

森見登美彦の作品には、「青春」、「恋愛」、「生き方」といった様々なテーマにまつわる名言がたくさん登場します。そのユニークな言葉選びを楽しみつつも、それぞれの名言を通じていつもとは少し異なる「斜め下」の目線から物事を眺めてみるのも一興です。

そんな森見ワールドから、今度はどんな名言が飛び出すのでしょうか? 今後も目が離せませんね!

初出:P+D MAGAZINE(2017/01/23)

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