ホストが書店員を務める「歌舞伎町ブックセンター」に、“LOVE”を探しに行ってみた
2017年10月に新宿・歌舞伎町にオープンした歌舞伎町ブックセンター。現役ホストが“ホスト書店員”として接客を行うことで話題を集めています。今回は、歌舞伎町ブックセンターのオーナー兼ホスト書店員・手塚マキさんに、歌舞伎町で書店を開いた理由や、選書のテーマである“LOVE”について、お話をお聞きします。
夜の街、新宿・歌舞伎町。今年10月、この街に新しくオープンした書店がじわじわと話題を呼んでいるのを皆さまはご存知でしょうか。
書店に並ぶ本のコンセプトは、ずばり“LOVE”。そんなド直球のテーマを掲げるこのお店、なんと現役のホストが書店員を務めているのです。
書店の名前は歌舞伎町ブックセンター。今回は、オーナー兼書店員の現役人気ホスト・手塚マキさんに、歌舞伎町で本屋を開いた理由から、テーマである“LOVE”について、歌舞伎町という街のカルチャーについて……などなど、たっぷりとお話を伺いました!
・プロフィール 手塚マキ
「歌舞伎町ブックセンター」のオーナー兼、ホスト書店員。歌舞伎町にホストクラブやBar、飲食店など10軒以上を構える「Smappa! Group」の会長。
店のホストたちが、全然本を読まなかった
――歌舞伎町に書店を作ろうと思われたのは、どうしてなのでしょうか。
手塚マキ(以下、手塚):ひと言で言うと、ホストに本を読んでほしいからですね。ホストって全然本を読まないんですよ。
僕はホストこそ、映画を見たり本を読んだりすることが大切だと思っていて、自分がオーナーを務めるホストクラブのホストたちにも長年そう伝えているんですが、みんな本当にそういうことをしない(笑)。ここももともと「Jimusyono 1kai」というカフェ兼イベントスペースで、ホストたちにも自由に本を読んでもらいたいと思って並べていたんですが、なかなか興味を持ってもらえなくて。
なので、いっそ本屋さんという形にして、ホストたちにも書店員を務めてもらえば、彼らが本を読むきっかけになるんじゃないかと思ったんです。実際、オープンしてから、書店員を務めるホストは本をお薦めするために一生懸命読書するようになりましたね。
――ホスト書店員と言うからには、普通の書店員さんとは違った接客をしてくださるんでしょうか。
手塚:ホスト書店員は、本とお客さんとをマッチングさせるコンシェルジュのようなイメージなんです。“LOVE”がテーマのお店なので、僕としてはぜひ「どんな愛をお探しですか?」って聞いてほしいんですけど、そんなキザなことはなかなか言えないみたいですね(笑)。でも、少しずつではありますが、歌舞伎町に遊びに来るお客さんにも足を運んでもらえる場所になってきました。
――今日もカフェスペースにお客さんがいらっしゃっていますね。
手塚:そうですね。土日の15時からは現役ホストが交代制で書店員として入るんですが、今日のようにホストがいない日でも、本のあるカフェバーとして利用してくださる方が多いです。
愛の街で“LOVE”を扱うのは、すごく自然なこと
――選書のテーマは“LOVE”だと聞いています。“LOVE”をテーマにしようと思ったのはどうしてなんでしょうか。
手塚:コンセプトは、クリエイティブ・カンパニー「東京ピストル」の草彅洋平さん、「かもめブックス」の柳下恭平さんと3人で決めました。柳下さんは、本のセレクトも担当しています。そうして話しているうちに、やっぱり“地のもの”を扱いたいね、という話になって。
――愛が地のもの、ということでしょうか……?
手塚:はい。僕は、歌舞伎町って愛のラビリンスだと思ってるんですね。ホストやホステス、キャバ嬢の人たちって愛のプロフェッショナルのように思われがちなんですが、決してそんなことないんです。みんな何かしら愛について悩んでいて、悩んでいる気持ちを紛らわすために歌舞伎町で遊んだり、お酒を飲みに来る。ここはそういう、愛の“迷路”のような街なので、愛の街で愛を扱うというのはすごく自然なことかなと。
――なるほど。本棚の本にはそれぞれ赤や黒の帯がかかっていますが、これにはどういう意味があるんですか。
手塚:これは、本を「赤いLOVE」「黒いLOVE」「ピンクのLOVE」という3種類に分けて、それぞれの色の帯を付けているんです。“LOVE”がテーマである以上、はっきりとした言葉で本のジャンルを分けるのは難しいと思ったのですが、色であれば解釈が人それぞれになって面白いかな、と。
赤であればまっすぐなLOVE、黒であればちょっとドロドロしたLOVE、ピンクであれば淡いLOVE……のようなイメージですが、その色からまったく違った感情を連想する人もいるでしょうし、この色はこれ、とはっきりとは定義しないようにしています。「この本、私にとっては赤だな」とか「どうしてこの本がピンクなの?」みたいな会話から、お客さんと書店員がコミュニケーションをとるきっかけになってくれたらいいなと思って。帯には、来てくれたお客さんに自由に書評や推薦文を書いてもらっています。
多様性はあるけれど特色はない街、歌舞伎町
――オープンしたばかりの歌舞伎町ブックセンターですが、今後はどんなお店になっていく予定なのでしょうか。
手塚:いずれは、ここが歌舞伎町の文化的サロンになってくれたら嬉しいなと思っています。僕は、歌舞伎町って幕の内弁当みたいな街だと思ってるんですよ。
――多様性のある街、ということですか。
手塚:よく言えば多様性があるんですが、悪く言えばあまり特色のある街ではない、というか……。カルチャーの発信地って、時代によって変わっていきますよね。たとえば、80年代には原宿や神宮前あたりがオシャレだと持てはやされて、それが代官山に変わったり、六本木になったり、と。それぞれの街にそれぞれの街らしいファッションがあって、そして、それぞれの街にはそれぞれの街のスタイルが確立され、ひとつの街が注目を浴びるとそのファッションが流行るわけです。でも歌舞伎町はそういう街になれないんですよね。ずっと、そのときに流行ったファッションを一歩遅れて真似してるような街なんです。
――でも、だからこそたくさんの人が集まる、という面もありますよね。
手塚:そうですね。いい意味で敷居が低いのが新宿・歌舞伎町のいいところだと思ってるんですが、その中にいる街の人間がずっと大衆文化の真似ごとしかできないのは嫌だなと思うんですよ。ずっとこのままでいいと思っていたら、ここでしか生きられなくなっちゃうなと。歌舞伎町の中にも、カルチャーを発信できる場所がひとつくらいはあってほしい。だから、ここがそういう場所になったら理想的だなと思いますね。
歌舞伎町ブックセンターオススメの、“LOVE”の本
インタビューの終わりに、歌舞伎町ブックセンターに置かれている本すべてに目を通しているというベテラン書店員・福原絵香さんに、オススメ本をお聞きしました(※この日は平日だったため、ホスト書店員さんはいらっしゃらず)。
“LOVE”にまつわる本屋さんらしい、ユニークなセレクトをお楽しみください!
――「赤のLOVE」「黒のLOVE」「ピンクのLOVE」それぞれの中で、これぞ! という本があったら教えてください。
福原:「赤のLOVE」であれば、写真家・荒木経惟の写真集、『荒木経惟 センチメンタルな旅1971-2017』はいかがでしょうか。
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これは、荒木さんが妻の陽子さんを撮り続けた、奥さんのための写真集です。名前の通りセンチメンタルで、まっすぐな情熱が伝わってくる、素敵な作品だと思います。
「黒のLOVE」なら、『香水―ある人殺しの物語』(パトリック・ジュースキント)はいかがでしょう。
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“匂い”にとても敏感な香水の調合師を主人公とする、ミステリ風の幻想文学です。ストーリー自体も非常に引き込まれるものなのですが、特徴的なのが、地の文が“匂い”にまつわる描写だらけなこと。「酸っぱい匂いが……」だとか、「かび臭い匂いが……」といった描写が過剰なくらい登場するのが、匂いに対する主人公の並外れた才能を象徴しているようで面白いんです。
最後に「ピンクのLOVE」。私は「ピンク」には可愛らしくてちょっとユーモラスなイメージがあるので、そういった本を選んでみました。北尾トロさんの『恋の法廷式』です。
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こちらは、『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』などの著作で有名な北尾さんが、実際に傍聴された裁判の中で“恋愛”に絡む裁判だけをまとめたノンフィクションの傍聴記です。ストーカー事件からドロ沼の不倫事件、アイドルとの恋愛から引き起こる事件……など、ゾッとする事件からクスッと笑えるような事件まで、さまざまな“LOVE”のかたちが詰まっている作品です。
――ありがとうございます。では、せっかく“LOVE”にまつわる書店なので、ちょっと無茶ぶりをしてもいいでしょうか。もしお客さんから「辛い失恋を吹っ切りたい」という恋愛相談をされたら、どんな本をオススメしますか?
福原:うーん……そうですね。雨宮まみさんの『まじめに生きるって損ですか?』はいかがでしょうか。
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こちらは、当店のブックセレクトを務めている柳下さんイチオシの本です。さまざまな女性の人生相談に対して、ライターの雨宮さんがとても彼女らしい、軽すぎも重すぎもしない絶妙なトーンで回答してくれているお悩み相談本ですね。失恋したときに読んだら、前に進もう、とちょっと前向きになれる1冊だと思います。
――では、「同棲している恋人と、ずっと仲良くい続けたい」という相談だったらどうでしょう?
福原:あ! それならこれしかないですよ。『ラブ・ダイアリー ―恋についての365問』。
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こちらは、恋愛にまつわる質問と白紙のページで構成されていて、自分で答えを記入することで完成する本なんです。質問は「恋人の好きなところは?」とか、「ケンカしたときについ言ってしまったひと言は?」、「あなたの恋愛の先生は誰ですか?」といったものまでさまざまです。
ひとりで記入してもいいですし、毎日少しずつふたりで書いていく、というルールにしても、ケンカしちゃったときに書くというルールでもいいかもしれませんね。この日記を続けていけば、ずっと仲良くい続けられるんじゃないかなと思います。
――なるほど。ユニークな本をたくさん教えてくださって、今日はありがとうございました!
福原:当店における本は、お客さんと店員やお客さん同士をつなぐコミュニケーションツールのひとつです。本のオススメのし方も書店員によってばらばらなので、ぜひ店員ともたくさんコミュニケーションをとっていただけたらと思います。ホスト書店員がいる日にも、ぜひ遊びに来てみてくださいね!
【歌舞伎町ブックセンター 店舗詳細】
〒160-0021
東京都新宿区歌舞伎町2-28-14
営業時間:12:00~翌5:00
初出:P+D MAGAZINE(2017/12/05)