【2018年の潮流を予感させる本】『秘密解除 ロッキード事件 田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』
ロッキード事件。40年たってわかる、「海外とかかわる事象」。 新資料をもとに新たな視点から事件の謎を解明する一冊を、井上章一が解説します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け! 拡大版Special】
井上章一【国際日本文化研究センター教授】
秘密解除 ロッキード事件 田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか
奥山俊宏
岩波書店
1900円+税
現代史の真実▼▼▼40年たってわかる「海外とかかわる事象」
いわゆるロッキード事件は、今から40年ほど前に、世間をさわがせた。時の総理であった田中角栄は、事件への関与がうたがわれ、逮捕されている。50歳代以上のかたなら、たいていそのなりゆきをおぼえているだろう。
そして、どうやらあの事件も、歴史の対象となりだしているようである。40年の時がたったことだけで、そう言っているわけではない。アメリカの文書館が、当時の非公開記録を、あかるみにだしはじめた。秘密扱いの指定を解除し、公開にふみきっている。おかげで、同時代にはわからなかったことなどが、くっきり見えてくるようになった。ありがたいことである。しかし、ここまでくるのに40年かかるのかと、いやおうなく考えこまされた。
角栄のやりかたは、アメリカにきらわれた。それで、怒りを買い、司直の手におちたのだと言う人は、少なくない。しかし、アメリカの誰がどう角栄をいやがったのか。その詳細を、具体的にあげてくれる書き手は、ながらくいなかった。
この本は、その点で出色の成果をしめしている。とにかく、アメリカ側のデータを、可能なかぎりあらいだしてくれた。おかげで角栄が中曽根康弘が三木武夫が、どううごいていたのかが、はっきりうかがえる。もちろん、キッシンジャーやフォードらの思惑も。
アメリカが角栄を、排斥したがったのだと、よく言う。しかし、それほど一枚岩のアメリカなどなかったことも、これを読めばのみこめる。なるほど、そうだったのかと感慨の深められることを、うけあおう。
それにしてもと、思う。現代史の、海外とかかわる事象は、日本にこもっていてもつかめない。外国のデータを、読みこなしていかなければならないことを痛感した。ロシア語の記録を駆使した北方領土返還交渉史など、読みたいノンフィクションは、たくさんある。2018年の、新しい仕事に期待をよせている。
(週刊ポスト2018年1.1/5 年末年始スーパープレミアム合併特大号より)
初出:P+D MAGAZINE(2018/01/03)