【2018年の潮流を予感させる本】『東電原発裁判 福島原発事故の責任を問う』

福島原発事故における東京電力の刑事責任を問う初公判が開かれました。裁判を通じて明らかにされたデータと証拠から、事故の原因をあらためて検証します。岩瀬達哉が解説。

【ポスト・ブック/レビュー この人に訊け!拡大版Special】
岩瀬達哉【ノンフィクション作家】

東電原発裁判 福島原発事故の責任を問う
東電原発裁判_書影
添田孝史
岩波新書
780円+税

原発のゆくえ▼▼▼安全対策より企業の利益確保を優先したツケ

本書は、原発訴訟という専門的で複雑な裁判をわかりやすく解説しただけでなく、東京電力の政治力と、経営トップの怠慢ぶりまで調べ上げた調査報道である。
何より驚かされるのは、原発事故が発生する数年前には、すでに大規模地震が「福島県沖で発生する可能性」を「政府の地震調査研究推進本部」が公表していたことだ。その場合、「一五・七メートルの津波」に襲われ、「原発の非常用設備は水没して機能を失い、全電源喪失にいたる」ことを、「東電の子会社」でもシミュレーションしていたというのだ。
「大きな津波が来るかもしれないというのはわかっていたが、まあ、来ないだろうと、一か八かに掛けて運転していた」のが、福島第一原発だったのである。
避けえない危険が身近に迫っていることを知りながら、肝心の津波対策を先送りしたのは、経営が「二期連続赤字」だったからだ。「三年連続の赤字を回避する」ため、「数百億円かかるとみられた津波対策は、業績が回復するまで着手を遅らせた」のだという。
安全対策より、企業の利益確保を優先したおかげで、未曾有の過酷事故を招き、多数の地域住民に被害を与えただけでない。今後、「廃炉や賠償などにかかる費用の総額は経済産業省の見積もりで二一・五兆円」かかることになった。
事案先送りの姿勢は、国の機関にも及んでいた。原子力安全・保安院の幹部のひとりが、「福島第一原発の津波問題」の不作為を指摘しようとしたところ、「余計なことは言うな」「あまり関わるとクビになるよ」と脅されたという。
これらの事実が明るみになったことで、東電の経営トップは刑事告発された。彼らがこの裁判で負ければ、他の電力会社も、原発の再稼働に慎重にならざるをえないだろう。裁判のあとは、間違いなく株主代表訴訟に見舞われ、全財産を失いかねないからだ。
注目の裁判は、年明けから本格化するという。

(週刊ポスト2018.1.1/5 年末年始スーパープレミアム合併特大号より)

初出:P+D MAGAZINE(2018/01/04)

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