誰かの手帳、覗き見たくないですか?“他人の手帳”を展示する「手帳類図書室」に行ってみた。
顔も名前も知らない誰かの手帳を手にとって読める、“手帳類図書室”。コレクションした手帳の展示を行う志良堂正史さんに、手帳を集めたことによる発見や今後の展望をうかがうとともに、コレクションの一部をご紹介いただきました。
私たちが普段、何気なく手にしている“手帳”。もしも顔も名前も知らない、誰かの手帳を読むことができたとしたら、あなたはどんなものが読みたいですか?
そんな願望が叶うのが、参宮橋のアートギャラリーPicaresque(ピカレスク)にある“手帳類図書室”です。ここには、手帳収集家として活動する志良堂正史さんが2014年より収集したコレクションが常設展示されており、1時間500円で、持ち主のわからない手帳を手にとって読むことが可能です。
筆者の手帳の中身を書籍化した『思考の手帖』(東宏治/著)を読んだ際に抱いた、「人のプライベートや内面の断片が書かれているものをコレクションしたい」という思いから手帳を集め始めた志良堂さん。手帳を集めたことによる発見や今後の展望をお聞きするとともに、貴重なコレクションの一部を公開いただきました。
「自分だけで楽しむのはもったいない」そんな思いで始まった手帳の展示。
プロフィール 志良堂 正史(しらどう まさふみ) 1980年生まれ。発見的収集家。北海道でサラブレッドの調教に従事したのち、ゲーム会社にてプログラマのとして経験を積む。その後フリーになり『シルアードクエスト』などの個人制作ゲームを発表。現在はエウレカコンピュータ所属。手帳類の収集は2014年より開始し、現在は1200冊以上を所蔵。その一部を手帳類図書室にて常設展示している。 |
――これまでに1200冊もの手帳を集められたとのことですが、最初の1冊目はどのように入手されたのでしょうか。
志良堂正史氏(以下、志良堂):“note”というSNSに「手帳を集めたい」と書いていたら、数週間後に「僕のもので良かったら」と返事をしてくれた人がいて。それが最初の1冊でした。
――1冊目を入手された後、展示を始めるまではどのような経緯だったのでしょう。
志良堂:最初の手帳を手に入れてから半年ほど経った頃、荻窪に住んでいた知人から「家を2週間ぐらい留守にするから、ちょっと借りない?」と声をかけられました。そこはギャラリーのようにも使える場所だったので、「せっかくだから何かやりたい。自分だけで読むのももったいないから、手帳の展示をやろう」と思って。
――当時、手帳はどれほど集まっていたのでしょうか。
志良堂:当時は10冊ほどでした。現在展示を行っているアートギャラリー、Picaresqueで働く方に展示の相談を行ううち、「展示をするのであれば、20冊は必要」とアドバイスされたんです。そこで、来場した人に興味を持ってもらったうえで買い取るために「1冊1000円であなたの手帳を買い取ります。」と呼び掛けたところ、2週間で手帳は50冊ほどにまで増えました。
――展示をしつつ、同時に集めるのはたしかに多くの人が興味を持ちそうです。展示はどのような形で行われていたのでしょうか。
志良堂:「手帳とは」、「このプロジェクトとは」といった掲示をもとに、一般的な個展の形式をとっていました。誰もやったことがないようなことはやはり不審がられますし、まずは面白さを見つけてもらってから「僕の手帳もいいですよ」と思っていただく目的があったので。
当時は今と違い、展示よりも集めることに力を入れていたので、集めるために展示を開いていたような形ですね。今は数が集まったので、どのように手帳を活かす展示をするか、人に読んでもらうかを考えています。
「目録」に込められた、手帳たちの特徴。
――現在の展示は、こちらの目録をもとにされているのですね。
志良堂:最初の展示は、大きなダンボールや本棚にある手帳を読んでもらう形式でしたが、来場者は手帳を楽しんで読める人と何を読めばいいのかわからなくて楽しめない人、両極端になっていました。そこで利便性の向上はもちろん、いろいろな人に多くの手帳に触れていただこうと、目録を作りました。
――手帳を買い取る際、どういった点を重要視して査定を行なわれているのでしょうか。
志良堂:闘病の記録など、これまで集めた手帳にない要素が深堀りされている点や、フォーマットを一切無視した書き方により、手帳の新しい可能性が見出されている点ですね。そういうものであれば目録にも特徴が記載ができるほか、「あまり類似したものばかりにしたくない」という狙いもあるので。
――1200冊もの手帳があると、どこか類似する点が生じることも少なくないのですね。
志良堂:できるだけ似た内容のものを置かないようにしているため、集めた手帳は、全てここに展示されているわけではありません。しかし内容が似たものであっても、たとえば薄い手帳なら、その薄さを強調するように、その手帳ならではの個性を見つけています。
――ホームページには「買い取った価格と同じ価格+発送料でお客様が買い戻すことも可能です。」と記載されていますが、買い戻しをされた方はいますか。
志良堂:こちらは、買取において不安を取り除く意味で記載しているのですが、過去に買い戻しをされた方はいませんね。最近は寄贈をメインにしているのも大きいかもしれません。
――ここに来られた方が持参する手帳には、どのようなものが多いのでしょうか。
志良堂:学生の頃に使っていた手帳を持参される方が多いです。社会人になるとスケジュールが固定化するほか、手帳を書く時間そのものが無いからか、働き始めてからの手帳は学生の頃に書かれた手帳と比較すると少ないですね。
――たしかに、社会人になるとアプリでスケジュールを管理する人も増えますよね。では、志良堂さんが今欲しい手帳はありますか。
志良堂:難しいことは承知ですが、現在所蔵にない弁護士や医者、政治家など堅い職業の方の手帳です。そういった職業の方たちが普段、どんな手帳を書いているのか非常に興味を持っています。
「手帳」とは、「手でかく帳」。
――1,200冊もの手帳を集めての気付きはありますか。
志良堂:展示を始めた当初は、スケジュール帳・日記帳・メモ帳と分類できると思っていました。しかし実際に手帳を手にすると、スケジュール帳の中に日記やメモが書いてあったり、ノートにスケジュールが書いてあったりすることから、「そう簡単に分類できないんだな」と思いました。「日記」や「メモ」なんてタグ付けはできても、カテゴリーを完全に分けることはしない方がいいと、集めながら気付いたんです。そんなこともあったので、「手帳とは」と聞かれた際には、「手で書く帳です」と答えるようになりました。
――スケジュール帳であっても、ふと浮かんだアイデアが書かれた時点でそれは完全なスケジュール帳とは言えないですよね。
志良堂:そう考えると、100%ピュアなスケジュール帳は、意外と少ないのかもしれませんね。本当に完全な分類は難しい。そういったことも踏まえて、手帳ごとの特徴を言い表すイベントを行おうとしています
集めた手帳を、どう生かすか。
――手帳類図書室ではどのようなイベントが行われているのでしょうか。
志良堂:過去には「他人の手帳を読む会」というトークイベントを、ファンシー絵みやげ収集家の山下メロさんと実施しました。これは開いた手帳を大写しにする機械を使い、参加された方と共有する形のイベントです。
「解釈の会」は、たとえば「2人で5時間手帳を読んでみる」といったようなイベントですね。まだ内容を模索している段階ではありますが、最終的には4,5人で1つの手帳を読んで、意見交換をする形になる見込みです。
――読書会のようですね。
志良堂:読書会では特定の本や映画を題材に意見交換ができますが、普通であれば特定の手帳を読んだ人で感想を共有することは、そうそうできません。でも、特定の手帳に感銘を受けた人同士で話し合うことができれば、参加者の関係性はより深まるのではないかと思っています。「解釈の会」を通じ、集める目的から展示、読む、味わうといった活かし方を考えていきたいです。
――今後の展望をお聞かせください。
志良堂:今も手帳を集めたい気持ちはありますが、どちらかといえばその一歩先の「集めたものをどう生かすか」、「何を発見・共有できるか」が目的です。「解釈の会」を実施して、そんな試みを強化したり、その機会を多く持てるようにしたいですね。また、集めた手帳をアウトプットするような本を執筆したいです。
それと、展示を見に来られた方から「もっといろんなものが読みたい」という要望をいただいているので、去年買い取った手帳をバラエティ性、多様性が保たれるよう目録に追加し、展示している棚を全て埋めたいと思っています。
(次ページ:いよいよ、コレクションをご紹介いただきます!)
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