神崎宣武『神主と村の民俗誌』/ほとんど知られていない神主のこと
民俗学者であるとともに、岡山の神社の宮司でもある著者が、自身の体験から記した貴重な一冊を紹介します。
【ポスト・ブック・レビュー この人に訊け!】
池内 紀【ドイツ文学者・エッセイスト】
神主と村の民俗誌
神崎宣武著
講談社学術文庫
1070円+税
装丁/蟹江征治
民俗学者としての観察が光る、実体験を通した貴重な記録
著者は宮本常一門下の民俗学者であるとともに、岡山の古い神社の宮司である。現当主で二十八代。秋から旧正月にむけては東京と岡山をのべつ往復する。
神主が世襲制をとっているのは意味があるだろう。祭主として祭礼をとり行うのを、すべて経験で学びとる。準備の一つの紙の切り方、
その語り方からもわかるように、これは神崎宣武宮司の若いときの記録である。
「
「ま、ま、その盃をあけてくだせえ」
ひとり祈祷をしている若は、そんなお相手もしてくれる。
貴重な記録である。一般に寺の僧侶のことはかなり知られているが、神主のことはほとんど知らない。妙な帽子や奇妙な靴や、目を洗うような白さの衣装や、独特の音色をもつ楽器を、ほんのちょっぴり知るばかりである。それがここでは実体験を通して、くわしく語られている。おりおり民俗学者の観察がキラリとまざりこむ。
(週刊ポスト 2019年9.6号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/03/28)