【著者インタビュー】三浦しをん『マナーはいらない 小説の書きかた講座』/小説の〝型〟を身に付ければ、書くことがより『自由』になる
直木賞作家の三浦しをん氏が、ときに自作を例に出しながら、自身の小説の技術を披露するエッセイ集。「自由に書くことと感性のままにがむしゃらに書くことは違う」と三浦氏は語ります。
【大切な本に出会う場所 SEVEN’S LIBRARY 話題の著者にインタビュー】
直木賞作家が執筆の裏側をたっぷりと明かして小説の書き方(読み方)を綴った爆笑&役立つ超絶エッセイ集!
『マナーはいらない 小説の書きかた講座』
集英社 1600円
アミューズブッシュ(推敲、枚数感覚)、オードブル(短編の構成、人称)から、コーヒーと小菓子(お題、短編と長編)、食後酒(プロデビュー後)についてまで全24皿(!)の書き方講座。〈げふり‥‥。みなさま胸焼けしていませんか? やはり二十四皿は過剰接待(?)だったか。すみません〉と綴るあとがきまで、フレンチの肘張った料理というより、三浦さんの手作り料理をひとり味わったような幸福な読後感が待っている。何度も笑って何度も膝を打つこと間違いなし。
三浦しをん
●MIURA SHION 1976年東京都生まれ。2000年『格闘する者に○』でデビュー。’06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、’12年『舟を編む』で本屋大賞、’15年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞、’18年『ののはな通信』で島清恋愛文学賞、河合隼雄物語賞を受賞。近著に『愛なき世界』やエッセイ集『のっけから失礼します』など。
やっぱり私は小説について考えるのが好きなんだなって思った
自分はこれまで、どうやって小説を書いてきたのだろう―。本書は三浦しをんさんが、そんな問いを自らにぶつけながら書いた一冊だ。きっかけは「コバルト短編小説新人賞」の選考委員を14年にわたって続けたこと。隔月ごとに選考会がある同賞の選考で、膨大な量の応募作を読んできた。だが、「そのなかで、もう少しここが上手に描けていたら」と思う瞬間が多かったのだという。
「近年、応募作のレベルは高くなっていて、面白い作品が本当に多いんです。だからこそ、気になる点がある。もう少しだけ小説のコツを知っていれば、がぜん『書きたいこと』が書けるようになるのに―と」
例えば、物語の人称をどう選ぶか、場面展開で気を付けたいこと、推敲の仕方やタイトルの付け方、さらには「一行アキ」にはどんな効果があるか‥‥。三浦さんはときに自作を例に出しながら、自身の小説の技術を披露していく。そのなかで、繰り返し込めたメッセージは、「小説の〝型〟を身に付ければ、書くことがより『自由』になれる」というものだ。
「小説にとって書き手の感性は何より大事なものです。でも―」と彼女は言う。
「自由に書くことと感性のままにがむしゃらに書くことは違う。感性はいずれ鈍っていく有限の煌めきです。その有限の煌めきを無駄遣いすると、いつか疲れて書けなくなってしまうでしょう。だからこそ、自分の感性をしっかり活かすために、小説の技術、戦略を知る姿勢が大切だと思うのです」
一つのテーマをレストランの「皿」に見立てた24のエッセイは、もちろん三浦節全開。小説家の頭の中を覗いているかのような面白さがある。その意味で本書は「書くこと」だけではなく、「小説を読むこと」の楽しさを伝えてくれる一冊でもあるだろう。
「自分ができていない指摘も多いのですが」と笑ってから、三浦さんは言った。
「ただ、自分はどう書いてきただろうと思い返しながら、『こうしたらいいんじゃないか』と書いていると、こんなふうに思いました。やっぱり私は小説について考えるのが好きなんだな、って」
素顔を知りたくて SEVEN’S Question
Q1 最近読んで面白かった本は?
『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』が新大久保に住んでみたいと思うぐらい面白かった。
Q2 新刊が出たら必ず読む作家は?
奥泉光さん。奥泉さんの作品は、人称視点といい構成といい、小説の魔術にあふれています。
Q3 好きなテレビ番組は?
ドラマ『チェリまほ』(30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい/テレビ東京系)を見ています。男が男に恋をするなんて!という旧弊な観点がなくて、とても丁寧に繊細に描かれていて、オススメです。
Q4 最近見た映画は?
アマゾンプライムで見た『ブランカとギター弾き』が本当によかった。バーでたまたま横になって意気投合したら、その人が監督の長谷井宏紀さんで(笑い)、勧められて見たんです。
Q5 最近気になるニュースは?
桜を見る会。検察がどこまで切り込んでいくのか、気になります。
Q6 最近ハマっていることは?
EXILE一族(笑い)。
Q7 何か運動をしていますか?
するわけがない!(ドヤ顔。笑い)
●取材・構成/稲泉連
●撮影/田中麻以
(女性セブン 2020年12.17号より)
初出:P+D MAGAZINE(2020/12/23)