ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第105回

ハクマン第105回
作家は編集者の意見を
聞くべきか?
結局結果論である。

かなり前だが「編集者がおそらく Twitter で、作家との関係についてつぶやき炎上したらしい」という話をした気がする。

何一つ確かな部分がないが「詳細は知らないし調べる気もないがとにかく怒っている奴」が現れてこそ炎上として一人前だ。
全員がことの詳細を知り、真剣に怒っている状態など児戯に等しく、スミノフ片手にキャンプファイヤーを囲んで「やべースゲー燃えてるw」と言っているに過ぎない。

私のように「何も知らないのに2000字怒る奴」が現れたという意味で、その編集者の炎上はなかなか本格的だったのではないか。

しかし、私はこの件に関しては、意識的に情報を入れないようにしていた。
言葉というのは、内容も大事だが「誰が言ったか」も重要なのだ。

「俺は今はこんなだけどいつかビッグになっから」と、さくら水産で隣に座っただけの黒目と白目がボーダレスになっている若者に言われたら、言葉を発するのすらもったいなく「フハっ」と水木しげるリーマンみたいな相槌を打つだけだろう。
しかし彼氏、もしくは彼氏だと思っている男にそう言われれば、それを信じ「私にできることがあるなら言って!」となってしまうのだ。

それと同じように「編集者が言った」という時点で私には発言内容の正当なジャッジなどできないのだ。
例え「呼吸なう」とつぶやいていたとしても「何生きようとしちゃってんだよ」と怒り出す自信があるし、反論しようがない正論でも「デンタルエステくさい息で喋るな」と論点をズラしてキレたはずだ。

つまりどの選択肢を選んでも「怒る」という結末にたどり着くクソゲームブックになってしまい、時間と怒りの無駄なので意識的に見ないようにしていた。

しかし先日別媒体の担当から不意に「某雑誌の編集が『漫画家は編集者が言った通りにネームを直さないでほしい』と発言して炎上していた」と聞かされ、その内容を知ることとなった。

それが本当にくだんの炎上と同じ話かは不明であり「〇〇は初代のみが至高、あとは産廃」など、もっとわかりやすい燃え方をしたのかもしれないが、おそらくこれだと思われる。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.89 大盛堂書店 山本 亮さん
◎編集者コラム◎ 『ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たち』ダグ・ジョンストン 訳/菅原美保