ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第104回

ハクマン第104回
成功者ほど
「同じことを続ける力」が
強いといえる。

例によってまた催促を受けてこの原稿を書き始めたのだが、例によって書くことはない。

思えばこの連載は9割締め切りと担当への怨嗟、そして書くことがないという内容で構成されている。

しかしそうなるのは当然であり、正直この連載は他のコラム連載の中でも群を抜いて書くことがない。
他の連載はそれでも毎回テーマ的なものが投げてよこされるのだが、このコラムは「漫画家の生活」以外のテーマが存在しないのだ。

一見自由で書きやすいように見えるが「漫画家の生活」が題材というのは「虚無」をテーマに連載してくれと言われているのと同じだ。

まず私のような大して売れてもいないひきこもりの漫画家に、2週間に1度、特筆すべきことが起こるわけがないのだが、これは私に限ったことではない。

フレディ・マーキュリーですら、映画内で「毎日同じことの繰り返しで何てクソみてえな人生だ」とブチ切れるシーンがあったという。

ちなみにフレディの言う同じことの繰り返しとは、我々のように「 Twitter と YouTube を反復横跳びしてたら夜になっていた」というリアルシットではなく、音楽制作やライブのことを指す。

我々から見ればクリエイティブでエキサイティングな活動も、それはいつか当たり前で代わり映えのない毎日になってしまうのだ。

おそらく売れている漫画家だって、やっていることは「面白い漫画を考える→面白い漫画を描く」の繰り返しなのだろう。
もしかしたら大谷翔平の予定表にも「ホームランを打つ」しか書かれておらず、代わり映えのなさで言えば我々以上なのかもしれない。

しかし、ジョジョの作者の荒木先生は、連載中も定時終了土日休みをずっと貫いているという。
これは今日はネーム、今日は作画と仕事、と完全にルーティン化し、それを守っているからできる業だ。
つまり、成功者ほど「同じことを続ける力」が強いとも言える。

ついでに荒木先生は還暦を超えているのに老けないことでも有名である、逆に「バランスの取れた食事と適度な運動に十分な睡眠」という代わり映えのない毎日を続けられないから我々はいつまでも顔色が悪いデブのままなのだ。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.87 未来屋書店石巻店 恵比志奈緒さん
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