ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第105回

ハクマン第105回
作家は編集者の意見を
聞くべきか?
結局結果論である。

私も担当が修正してきた部分が、彼女がどっちを購入しようか迷っている色違いのカットソーぐらい「どうでもいい」場合は言われた通りに修正する場合が多い。

こちらも担当のネーム許可が出ないと原稿に入れないので、修正箇所が根幹にかかわる部分でなければ指示通りにしてとりあえず進めようとしてしまうこともあるが、それがダメだというなら、最初から具体的な指示など出さず「ここもうちょっといい感じにしてもらえます?」と投げっぱなしジャーマンにしてくれた方が齟齬がなくて良いのではないかと思う。

作家はどれだけ編集の意見を聞くべきか、に関しては正直結果論なのでどちらともいえない気がする。
インド人のアドバイスをフルシカトして作ったカレーがバズったように、編集の意見を完無視で作って売れた作品はいくらでもあるだろう。
逆に編集者主導で作って売れている作品だってあるのだ。

結局売れれば、編集の意見を聞かなくて良かった、ということになるし、売れなければ編集の意見を聞かなかったのが悪かったんじゃないか、という話になるだけである。

しかし、作品は作家の名前で出るし売れなくて餓死するのも作家なので最終的な決定は作家にさせた方が良いのではないかと思う。

どちらにしても「私の指示に対し、それを超えたものを出してくるか、手並み拝見といきましょうか」みたいに思われるのは困る。
むしろ作家が指示通りに修正してきたら、穏便に済んで良かったと思って欲しい。

すでに相手が私のように「担当の言うことには全部キレる」確変状態に突入している時もあるのだ。

その場合、指示がいかに的確でも「俺様のネームを全く理解できていない上に、突然見開きでウンコを描けと指示してきた」と思われてしまう可能性がある。

つまり作家が指示に従おうが従うまいが、急に暴れださなかっただけマシと思ってほしい。

「ハクマン」第105回

(つづく)
次回更新予定日 2023-4-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.89 大盛堂書店 山本 亮さん
◎編集者コラム◎ 『ダークマター スケルフ葬儀社の探偵たち』ダグ・ジョンストン 訳/菅原美保