◎編集者コラム◎ 『ホステージ 人質』クレア・マッキントッシュ 訳/高橋尚子
◎編集者コラム◎
『ホステージ 人質』クレア・マッキントッシュ 訳/高橋尚子
幼い少年の命を奪ったひき逃げ事件からはじまり、最後には読者を思いも寄らない場所へ連れて行ってしまう物語を、デビュー作と思えない手腕で描ききったイギリスの作家クレア・マッキントッシュ『その手を離すのは、私』。
元警察官の著者はその後も次々とベストセラーを世に送り出し、英国ではすでに「スリラーの女王」とも称される人気作家の地位を確立しています。本作『ホステージ 人質』は、そんな著者の長編6作目、日本では2作目のご紹介となります。ロンドン‒シドニー間20時間の直行便の機内が舞台のひとつで、主人公はCAのミナ。もうひとつの舞台はロンドンのミナの家で、5歳の娘ソフィアと、ミナに留守を任された別居中の夫アダムの2人が登場します。
デビュー作では、ウェールズの海の情景と女性の不安定な心理が繊細かつ美しい文体で描かれる章と、事件を捜査する警察官の日常や苦悩がリアルに描かれた章の対比や、第一部と第二部で一気にシフトチェンジする大胆な展開が本当に見事だった著者。売れっ子作家となり、作風に変化があったりするのかな…という気持ちで読み始めた本作でしたが、読み終えて驚きました。
…エンタメ度爆増しやん…!
デビュー作がどちらかというと「静」の物語とすれば、本作は明らかに「動」の物語。いえ、決してアクションものというわけではありません。むしろミナも家族もそれぞれが密室に閉じ込められ身動きの取れない状況に置かれてしまいます。ではなぜ「動」の物語なのか。とにかく読んでいる間のこちらの心の動きが半端なく、感情が大忙し状態になってしまったからです。
主人公たちも次々に登場する人物もことごとくどこか怪しく、ツイストにつぐツイスト展開に「うわっ!」「なにぃ~?」と驚いたり悶絶したりしているうちに、徐々にそれぞれの秘密が明らかになり、そのたびに軽いパニック状態に。さらに、私たち現代人が直面している大きな社会問題が事件の鍵となり、局面局面で「で、あなただったらどうする?」と鋭い問いを突きつけられてしまうのです。「いやー決めらんないでしょそんなの…」とか独りごち、展開のすさまじさにアワアワし、やっとすべてが解決したああよかった…と安堵した矢先に、本当にとんでもない事実が待ち受けていて、崖の上から突然突き落とされてしまいました状態のまま本を閉じることになるという、最後の一行まで全く油断のならないスーパーエンタテインメント小説だったのです。
私の拙い紹介文でこの凄さのすべてをお伝えすることは不可能なので、ぜひとも! 本書を手に取って読んでみてください。ゴールデンウィークに旅行のご予定のある方は、飛行機の中なんかで読んで頂けると、さらにお楽しみ増し増しになること間違いなし、です。
──『ホステージ 人質』担当者より
『ホステージ 人質』
クレア・マッキントッシュ 訳/高橋尚子