週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.106 元書店員 實山美穂さん

書店員さんコラム 實山美穂さん

『夜空にひらく』書影

『夜空にひらく』
いとうみく
アリス館

 今回は、花火が印象的な3冊を選びました。

 まずは1冊目。著者のいとうみくさんは、日本児童文学者協会新人賞、日本児童文芸家協会賞、野間児童文芸賞など受賞された、児童文学作家です。著作が青少年読書感想文全国コンクール課題図書に選ばれることもありましたので、お世話になったという方も多いのではないでしょうか。児童向けのジャンルで、さまざまな家族の物語を書かれています。

 今回の作品は、まず表紙の花火が目を引きました。17歳の主人公がアルバイト先で暴力事件を起こし、家庭裁判所に送致されたのち、試験観察処分となり、見知らぬ地へ連れていかれるところから物語は始まります。補導委託先(補導委託とは、家庭裁判所が少年の最終的な処分を決める前に、民間のボランティアの元へ非行のあった少年をしばらくの間預け、少年に仕事や通学をさせながら生活指導してもらう制度のことです)に選ばれたのは、山梨県で煙火店(花火の製造所)を営む家でした。親の愛情を知らずに育った少年と、子どもを亡くした煙火店の店主との交流が描かれます。彼の過ごした煙火店では、店主の家族だけではなく、住み込みの職人たちもいて、にぎやかで優しい家庭の雰囲気に触れ、幸せな記憶もよみがえります。彼が人とふれあい、仕事を学び、どんな風に成長を遂げるのか、見届けたくなる作品です。

 花火というと、私の生まれ育った新潟県長岡市は、日本三大花火大会で有名な都市です。幼い頃から、長岡の大花火を見て育ちました。ただ、その花火は見るというよりも、全身で感じるものだと思っています。長岡の花火で目玉の正三尺玉は、打ち上げる前ですら直径約90cmもあるそうです。打ち上げの高さが約600m、開花時は直径約650mということですから、体験してみないとわからない大きさかもしれません。夜空に広がる長岡大花火は、視覚から入ってくる情報よりも、光と音と衝撃が想像以上のはずです。

 長岡花火の歴史を知る上でおすすめなのは、長岡出身の山崎まゆみさんの『白菊』(小学館)です。伝説の花火師・嘉瀬誠次の生涯に迫るこの本は、長岡花火にはかかせません。慰霊のための花火は、見る人の涙を誘い、郷愁が広がります。今年も8月2・3日の長岡まつり大花火大会で花火を堪能する予定です(この原稿が掲載される頃には長岡まつりは終わっていますが……)。私は、長岡まつりが終わると、「夏が終わった」と毎年思います。花火の衝撃の余韻が、さみしくさせるのかもしれません。そんな風に思わせられる、花火の作り手側のドラマを、読書を通じてぜひ想像してみてください。

 

あわせて読みたい本

『空に咲く牡丹』書影

『空に咲く恋』
福田和代
文春文庫

 2冊目は、長岡花火を題材にした作品から紹介。女性アレルギーを持つ上に、ヘタレな主人公は、それが理由で群馬の実家(煙火店)から逃げ出してしまいます。旅先の、新潟県長岡市山古志で交通事故に遭遇し、出会ったのは花火屋の跡取り娘でした。この出会いが、逃げ出したはずの花火師という職業に向き合うきっかけになります。花火大会の臨場感や、あまり小説では見かけない新潟弁も読むことができました。まぶしい青春の、ボーイミーツガール物語です。

 

おすすめの小学館文庫

「空に牡丹」書影

『空に牡丹』
大島真寿美
小学館文庫

 この作品の主人公は、江戸時代から続く村の名主で、大地主に生まれた可津倉静助。彼は財産を花火に費やし、花火道楽と言われたのに、村人たちにも、彼を直接知らないはずの子孫にも愛され、逸話が語られ続けているといいます。静助が愛したのは、この世の虚しさを美しさに変えて、空に消えていく花火でした。彼の、花火のような人生が物語のなかで語られています。花火を作る人、見る人、想いを馳せる人、全てにドラマがありました。
◎編集者コラム◎ 『始まりの木』夏川草介
萩原ゆか「よう、サボロー」第9回