週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.142 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

幾世の鈴 あきない世傳 金と銀 特別巻(下)

『幾世の鈴 あきない世傳 金と銀 特別巻(下)
髙田 郁
ハルキ文庫

 初めて読んだ髙田郁先生の作品は、『あきない世傳 金と銀(五) 転流篇』だった。
「えっ……! 一巻ではなく五巻……!? なぜ……??」と、今思い返すと、自分に突っ込んでしまう。

 実は、刊行記念トーク&サイン会のお話があり、事前にゲラをいただいたのだ。お恥ずかしながら当時は、時代小説をほぼ読んだことがなく、シリーズ五巻目のゲラという事で、ハードルがさらに上がっていた。読む前から「自分には無理かもしれない……」と心がしぼんでいた。

 しかし、読み始めてビックリ……! あまりの衝撃的な面白さに夢中で読み続け、気づいたら全巻購入していた。シリーズの途中から読んで、こんなにも心を揺さぶられた読書体験は初めてだった。その後、髙田先生の大ファンになり、全作拝読した。

 そんな、大好きな『あきない世傳 金と銀』をシリーズ&特別最終巻として、オススメ3ポイントにてご紹介させていただきたい!


オススメポイント① 激動の人生に目が離せない人間ドラマ!
 大飢饉により、九歳で大坂天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ出された幸さん。女衆でありながらも、商いの才能を開花させていく様子に、胸の高鳴りと興奮が止まらない。そして、予想ができない大荒波のような怒涛の展開が、とにかくすごい! 読み始めたら、止まれない面白さだ!

オススメポイント② 強い信念と揺るぎない絆が輝く物語
 物が売れない時代に、知恵と努力を重ね「うての幸い、売っての幸せ」を貫き続ける志に、全身にみなぎるような勇気があふれる。まさに、全ての商いに通じる心臓のような信念。そして、どんな苦境も、大切な人々と共に手を取り乗り越えていく姿に熱く心を打たれた。

オススメポイント③ 最終特別巻に込められた想いに涙
 本作では、シリーズの集大成として、さまざまな視点での想いが描かれている。それぞれの心にふれ、今まで見てきた情景が脳裏に浮かび、万感の想いが込み上げた。そして、タイトルに込められた意味を知り、心の奥底から、瑞々しい感動の泉に包まれるような涙が止まらなかった。


 人は自分が体験して、初めてその人の苦しみや哀しみに気づくことがあると思う。その時に、自分を省みてやり直せる事ができれば、きっと未来が変わっていく。

 ただ、どんなにやり直したくても、できない事もある。

 だからこそ、取り返しがつかなくなる前に、想像力をふくらませ、多くの豊かな視点で物事を考えなければならない。そして、人と人との絆の架け橋となる、相手の気持ちを知りたい、分かりたいと思う心が枯れないよう、育てていかなければならないと思う。

 たとえ良い結果にならなかったとしても、誠実に向き合った努力の道は残り、きっと人生の大きな糧となる。そんな、どんなに時代や世代を超えても、決して忘れたくない大切な心を、最終特別巻の『幾世の鈴』を通して教えていただいた。

 最終巻を迎えても、100年、200年先をずっと想像したくなる、未来を照らす真心の光のような物語。私は、この作品に出逢えた事は一生の宝物である。

 これからも、何度も大切に拝読したい。進む道に迷い倒れた時に、何度も立ち上がる力をいただける、人生の視界が晴れ渡る絶対オススメしたい作品だ!

 

あわせて読みたい本

ふるさと銀河線 軌道春秋

『ふるさと銀河線 軌道春秋
髙田 郁
双葉文庫

 一寸先は光か闇か。続く人生の道で、苦しみや哀しみに出逢った時に、心をそっと支えてくれるような短編集。暗い夜道を、ぽっと穏やかな光が灯るような人間ドラマ。全身がじんわりと温まり、日常の幸せを感じる作品。

 

おすすめの小学館文庫

いのちの使いかた 新版

『いのちの使いかた 新版
日野原重明
小学館文庫

 生と死を丁寧に、大切に見つめ続けた日野原先生。一文一文にやわらかな生命力があふれていて、疲れた心が、どんどん回復していくようなエッセイ。言葉の力で、命の煌めきがさらに輝く、生き方の道しるべのような1冊。

宗岡敦子(むなおか・あつこ)
読書と水泳が大好きです! 気になる作品は、ジャンル問わず何でも読みます!


◎編集者コラム◎ 『めおと旅籠繁盛記』千野隆司
▽▷△超短編!大どんでん返しExcellent▼▶︎▲ 三崎亜記「扉を守る者」