週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.134 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん

 外国文学を読み始める前は、いつも緊張感が止まらない。
 お恥ずかしながら、理由は記憶力が乏しいため、多くの人物が出演していると、まず名前を覚えられない。

 また、国々の文化や習慣についても詳しく知らないため、「あわわわ……」とすぐに大パニックになってしまう。

 しかし、早川書房様からの新刊ご案内のある一文に、目が釘付けになった。
「〝中国の東野圭吾〟による一気読み必至の社会派ミステリ」
 これは……もう読むしかない! 絶対読みたい……!

検察官の遺言

『検察官の遺言』
紫金陳 訳/大久保洋子
ハヤカワ・ミステリ文庫

 驚異のパワーワードに、外国文学は厳しいという気持ちは、スコーンと吹き飛び、気づいたら夢中で読み始めていた。

 そんな、紫金陳氏『検察官の遺言』を、オススメ3ポイントにてご紹介させていただきたい。


オススメポイント① 中国文学が得意でなくても大丈夫!
 お察しの通り、私も全く得意ではありません。ですが、本作に関しては、とにかく読みやすい! 冒頭から、あっという間に引き込まれ、本当に止まることができない面白さ。この先どうなるの!? ああ……気になりすぎる! と大興奮の一気読み!

オススメポイント② 〝中国の東野圭吾〟に大納得!
 なんと、紫金陳氏は、2008年に大陸で翻訳された、東野圭吾氏の『容疑者Xの献身』に影響を受け、社会派小説家を志したとのこと。緻密な伏線と驚きの仕掛け、人間の心の奥底を描いた人間ドラマは、まさに東野氏に匹敵するミステリ! すごすぎて、何度も思考が停止した!

オススメポイント③ ラストの真実に涙が止まらない!
 過去と現在に起きた、全く関係なさそうな2つの事件。それぞれの事件が交錯した時、言葉を失う事実が浮き彫りになっていく。鳥肌が立つとはまさにこの事。驚愕の真実に、心が大嵐に包まれるようだった。そして、全身の血が沸き立ち、魂が燃えるようなラストに、熱い涙があふれ落ちた。タイトルの意味が胸の奥まで沁みた。


 本作を読み終えた後、紫金陳氏の大ファンになり、翻訳されている全作品を拝読した。どの作品も、とにかく圧倒され、中断できない面白さだった。

 どうしてこんなにも魅了されるのか。考えてみたところ、やはり人間の深層心理描写が、まるで生きているように心に迫ってくるのだ。そして、社会や法で裁けない罪の行き場と、そこから生まれたどうにもできない感情は、どこで消化すれば良いのか。

 そんな、社会の闇を警鐘するような余韻が深く残り、問題提起される物語に心を揺さぶられる。

 これからも、紫金陳氏の作品が待ち遠しくてたまらない! 決して折れない想いと信念の剣で貫かれる、熱い読書体験をされたい方に、ぜひオススメしたい作品だ!

 

あわせて読みたい本

知能犯之罠

『知能犯之罠
紫金陳 訳/阿井幸作
行舟文化

 次々と殺害されていく公安局長たち。緻密な計画と実験、検証の上で犯行を続ける、天才的な頭脳を持つ犯人に、一瞬も目が離せません。そして、事件現場で偶然会った旧友が、警察官というドキドキの展開! 想像を絶するラストに、言葉を失ってしまった! シリーズ2作目の『知能犯の時空トリック』も、絶対オススメしたい!

 

おすすめの小学館文庫

嘘と聖域

『嘘と聖域』
ロバ-ト・ベイリ- 訳/吉野弘人
小学館文庫

 元夫の殺害容疑で逮捕された、検事長ヘレン。絶大な信頼をよせる、弁護士ボーに弁護依頼をするも、次々に発覚する不利な状況に悪戦苦闘。ただ、どんなに困難な事態にも、決してあきらめず、立ち向かうボーの姿に、体の芯から熱い気持ちが込み上げる。タイトルの想いが胸に沁みる、勇猛果敢な法廷ミステリ!

宗岡敦子(むなおか・あつこ)
読書と水泳が大好きです! 気になる作品は、ジャンル問わず何でも読みます!


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