週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.165 BOOKアマノ布橋店 山本明広さん
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初めて本(小説)を読んだ時のことを、覚えていますか?
今でこそ、このような場で本の紹介をさせていただいておりますが、実は私、書店員という仕事をするまではまともに本を読んだことがありませんでした。
そんな私が今回紹介するのは、Webライターのかまどが「本を読んだことがない」友人みくのしんに本を読ませた様子をレポートし、ネット上で話題になった記事を書籍化した一冊、『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』です。
みくのしんが本を読んだことがない(読めない)理由として挙げたのは、文字を読みながら登場人物やシーンを脳内に描くことが出来ない、そのため内容が頭に入ってこない、すぐ飽きてしまう、長すぎる、といったもの。また、国語の教科書やテストに載っている物語は「『読書』じゃなくて『お勉強』」と感じたそうです。ああ、わかる……! 私が本を読んでこなかったのも、そんな理由でした。
そんなみくのしんのためにかまどが用意したのは『走れメロス』。誰もが大体の内容を知っている短めの名作ですが、やはり「字を追うだけでは内容がわからなくなる」と、みくのしんは自ら声に出して読むことを提案します。そしてこれが読書レポート史上例のない(?)奇跡を生んだのです。
本を読むことに慣れていくと、意味がわからない言葉や状況はなんとなく前後の言葉から推測して補って読み進めていくようになるものですが、そうすると「話が理解できなくなる」ということで妥協はしません。読んでいてわからない言葉や理解できない状況が出てきたら逐一確認したり、さらにはツッコミを入れたり猛烈に共感したりしていきます。これだけ読み込んでもらったら作者冥利に尽きるだろう、というほどにリアクションをしていきます。
その反応に、「そこでそんな風に思うの?」とか「その言葉の意味をちゃんと考えずになんとなく読んでいたけど、実際はそういう意味だったのか!」とか、既に読んだことのある方も新しい発見をすることでしょう。自らの本の読み方を見直すきっかけにもなるかもしれません。本を読み慣れていない方なら、「これなら、私も本を読めるかな」と思えるかもしれません。
そんな調子で、『走れメロス』に続いて『一房の葡萄』、『杜子春』、さらには『変な家』の著者でありみくのしんの友人でもある雨穴による書き下ろし短編『本棚』と読んでいくのですが、果たしてどんな風にこれらの作品を読んでいくのでしょうか。
余談ですが、この本に収録されている作品、私はどれも読んだことがありません!
でもこの本を読んで、さっそく読んでみようと思いました!
あわせて読みたい本
書店に並ぶ本を読みたくなって手に取ってもらうにはどうしたらよいか。書店員にとって永遠の課題で、その手法はそれぞれが独自に考えて口伝によって継承されてきたものであり、店、人によって異なる。大型書店を中心にその最前線でキャリアを積み重ねた著者が実践してきた、本を売るための書店員の技術をまとめた書籍を漫画化。この本を読めば、書店員は明日から売り場を見る目が変わるだろうし、書店を訪れる人は明日から店頭で本が並んでいる様子を見るのがきっと楽しくなるだろう。
山本明広(やまもと・あきひろ)
静岡県浜松市出身の書店員。店では書籍全般と文庫を担当。静岡書店大賞の実行委員も務めています。