週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.157 BOOKアマノ布橋店 山本明広さん

目利き書店員のブックガイド 今週の担当 BOOKアマノ布橋店 山本明広さん

 静岡県浜松市の書店、アマノ布橋店の山本明広と申します。縁あってこちらで本の紹介をさせていただくことになりました。よろしくお願いします。

 そんな私が働く店のある静岡県が今、文芸の世界で「来ている」と勝手に思っています。というのも、2020年『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した宇佐見りんさんは静岡県沼津市生まれ、2023年『木挽町のあだ討ち』で直木賞を受賞した永井紗耶子さんは静岡県島田市生まれ。そして2024年の本屋大賞に選ばれた『成瀬は天下を取りにいく』の著者、宮島未奈さんは静岡県富士市生まれ。

 そこに新たに加わる存在になるのではないかと期待しているのが、今回紹介する静岡県静岡市生まれ、『物語を継ぐ者は』の著者、実石沙枝子さんです。

物語を継ぐ者は

『物語を継ぐ者は』
実石沙枝子
祥伝社

 いじめによって孤立してしまい、本を拠り所に小学校生活を過ごしてきた本村結芽。中学生になったある日、今まで存在すら知らなかった伯母が交通事故によって急死したことを知らされ、その伯母の遺品整理を手伝わされるのですが、そこであるものを発見します。

 それは、結芽が小学生時代に何度も読んだ児童書『鍵開け師ユメ』シリーズの新作の原稿。それと自身が著者宛てに送ったファンレターでした。なんと結芽の伯母は『鍵開け師ユメ』の作者イズミ・リラだったのです。しかし、残されていた原稿は未完のまま終わっていました。このままでは物語の結末を読むことは叶わないのです。

 孤独だった小学生時代を支えてくれたユメの冒険の終わりを何としても見届けたい。そう思った結芽はなんと、自らその続きを書くことを決意します。中学校の同級生で同じ文芸部の琴羽や担当編集の倉森、離れて暮らす父の力を借りて、なんとかその続きを書こうとするのですがなかなか筆が進みません。そこでもう一度作品を一から読み直し、ふと魔法の呪文を唱えると、物語の中にその姿があったのでした。

 そして物語の中に入って自ら経験したことを記していくのですが、何かが足りない。それは本来の作者イズミ・リラの想い。姪にその存在を知らされず、家族からもいなかったかのように扱われてきたイズミ・リラがどんな人生を歩み、どんな想いで物語を紡ぎ続けてきたのか。その想いを引き継ぐことで、ユメの冒険の結末を綴ることが出来るのです。

 子供の頃、夢中になった物語があった。本に救われた経験がある。そんな大人や、これからそんな物語と出会うであろう子供たちに読んでほしい作品です。

 

あわせて読みたい本

ぬくもりの旋律

『ぬくもりの旋律』
岡田真理
河出書房新社

 静岡県静岡市出身、フリーランスライターとして様々なスポーツを取材し、連続テレビドラマの脚本も手掛ける著者のデビュー小説。スポーツ新聞記者の直生は、プロ野球栄神タイガース抑えのエース宮城から大リーグ挑戦を内々に知らされる。直生には自閉症スペクトラムの娘がいて、子育てを妻の栞に任せきりにしている。独立して海外で取材をしたい直生、子育てが落ち着いたら仕事復帰するつもりだった栞、何かと目をかけてくれる兄、高校時代の先輩、佐々倉美琴……様々な人々のつながりが奇跡を生む物語。

 

おすすめの小学館文庫

超短編! ラブストーリー大どんでん返し

『超短編! ラブストーリー大どんでん返し』
森 晶麿
小学館文庫

 静岡県浜松市出身、第1回アガサ・クリスティー賞受賞作家の恋愛掌編集。色とりどりの恋愛模様にドキドキしていると、最後の最後で引っくり返されて「えっ!」となり、気が付くと「今度はいったいどんなオチが待っているのか」とそればっかりが気になってしまう。1話4ページ全31編の物語を収録。短時間でドキドキもワクワクもビックリもほしい、そんな欲張りな人にオススメ。

 

山本明広(やまもと・あきひろ)
静岡県浜松市出身の書店員。店では書籍全般と文庫を担当。静岡書店大賞の実行委員も務めています。


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