和田靜香さん インタビュー連載「私の本」vol.17 第2回

和田靜香さん「私の本」

前回、話題の『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』を書く際のさまざまな逸話を話してくださった和田靜香さん。その最新刊が昨年10月、衆議院議員選挙に立候補した小川淳也さんの選挙の様子を追った『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』です。その体験を通して感じ、考え、思考したこととは?


民主主義を実践してみようと香川へ

 昨年末に出版した『選挙活動、ビラ配りからやってみた。「香川1区」密着日記』は、「時給はいつも最低賃金」を書くときに考えた民主主義を、実践しに行った記録です。

 とにかく最初は、選挙ってどんな感じなのかなという興味だけだったんです。とりわけ一緒に本を作った小川さんの選挙に関心があったから、当初は2~3日遊びに行こうかというくらいの気持ちでした。

 でも昨年10月31日に投開票すると決まった瞬間に、なにかざわざわとした想いが湧き上がってきて、約2週間の選挙期間すべてを見たいと感じたんです。じゃあ、どうせ行くなら日記でも書こうか、と。それ以上はなにも決めず、行きあたりばったりの私らしくノープランで小川さんの選挙区である香川の高松に入りました。

選挙活動は大人の文化祭

 ビラ配りや電話かけを実際に体験したり、街宣車に乗ったり、スーパーの前でたった3~6人ほどの人を前に話す小川さんの青空集会の様子を見たり。

 選挙活動中は休日がないから、そういうドブ板選挙というのは本当に体力勝負なんですね。でも、みんなでワイワイやって毎日興奮して、まさに大人の文化祭という感じでした。最後の演説会が終わっても、誰もが帰りがたい感じでいつまでも残っているような雰囲気なんです。

 そんなふうにみんなが自分の意思で集まり、それぞれがやれることをやって、支持する人を国会に押し出していく。『民主主義とは何か』の著書である宇野重規さんは「政治的な議論が少数の特権者だけではなく、伝統的なしがらみから解放された多数の市民の政治参加によって広く制度化されること」が民主主義だと書いていますが、それがまさに行われていた場だったのです。

 その一方で、香川1区で小川さんの対立候補だった自民党の平井卓也さんは、コミュニティセンターや公民館という大きなホールで演説をしていました。それはあらかじめ支持団体や支持者層が明確だからこそできる、囲い込み的な手法なんですね。でも、それは民主主義の本来的な形とはいえないんじゃないかと感じました。

和田靜香さん「私の本」

日本のことも、自分のこともあきらめたくない

 とはいえ、最後のほうでは私も疲れ果てて、「なにをしてるんだろう」と思ったりもしました。でもそのたびに、「私は日本のことも、自分のこともあきらめたくないんだ。だから、ここに来ているんだ」と根底にあった思いを再確認しました。

 今回の私の著書には、インスタライブで行った小泉今日子さんと小川さんと私の鼎談も載っています。そこで小泉今日子さんも、「投票をするのはもちろん自分のためだけれど、自分のためという理由が見つからない人は、自分の将来の子どものためでもいいし、大好きな人のためでもいい。自分のためにと思うと動きづらいけれど、誰かのためにとか、未来のためにと思うと頑張れる」と仰っていましたが、本当にその通りだと思います。

選挙中に生まれた、小川さんとの対話

 この選挙戦では、小川さんと私のあいだにひとつの対話というか、騒動があったんです。発端はフェミニスト作家のアルテイシアさんから、小川さん一家が選挙期間中につけているタスキについて、ツイッターのDMをもらったことでした。そこには、「『妻です』『娘です』タスキが一部の女性から批判されています。『個人名』ではなく、男性(小川さん)を中心とした『役割』で女性を呼ぶことは、家父長制の香りがしますし、時代遅れかな〜と感じます」とありました。

 アルテイシアさんはフェミニズムに関する数々の著作があって『モヤる言葉、ヤバイ人』は、私も大好きな1冊です。選挙中には、きちんとした実力と経験を持つ女性が街宣車でアナウンスしているのに、「ウグイス嬢」と呼ばれることにムカッとしたこともありました。まぁ、すぐにムカッとしちゃうのが自分の性質でもあるんですけれど(笑)。

 それでも日ごろからフェミニストであることを自覚もしていたので、タスキに対して「確かに」と感じて、それを小川さん一家にお伝えしたんですね。でもご家族にはご家族なりの気持ちがあることもわかり、そのときは多くの対話がありました。

 そのタスキ騒動で、「こんなこといっていいのかな?」と悩んでいた私の相談に乗ってくださったのが、作家の星野智幸さんです。2017年に相撲について書いたエッセイ『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』の出版記念イベントで対談して以来、星野さんは私にとって心から尊敬できる親友になりました。 モヤモヤして言葉にならないことがらや私の気持ちを全部言葉にして言ってくれるので、まるでカウンセリングに通っているようだと感じると同時に、作家の凄さというのをまざまざと見せてくれる人でもあります。そんな星野さんの小説『だまされ屋さん』は家族の在り方を通じて、人と人のつながりは今どうあってほしいかを考えさせてくれる、大好きな本です。

(次回へつづきます)
(取材・構成/鳥海美奈子 写真/横田紋子)

和田靜香(わだ・しずか)
相撲・音楽ライター。千葉県生まれ。著書に『世界のおすもうさん』、『コロナ禍の東京を駆ける――緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(共に共著、岩波書店)、『東京ロック・バー物語』(シンコーミュージック)などがある。猫とカステラときつねうどんが好き。

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