週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.37 吉見書店竜南店 柳下博幸さん


幸村を討て

『幸村を討て』
今村翔吾
中央公論新社

 戦国時代を終わらせた戦い「大坂の陣」。
 数多くの作者によって綴られてきたこの戦い。直木賞受賞後第一作に今村翔吾が選んだのは真田幸村を主軸に据えたミステリアスな戦国ドラマ。

 関ヶ原の戦い以後徐々に力を削られ、滅びゆく運命を迎えた豊臣家。追い詰められた豊臣家は、来るべき最後の決戦に向け全国に檄を飛ばすも、豊臣恩顧の大名は誰一人立ち上がらず、呼びかけに応じたのは真田幸村をはじめとした寄せ集めの牢人衆十万。対する徳川方は四十万の圧倒的精兵で難攻不落の大坂城に攻め寄せる。

 それぞれの思惑で大坂城に集った有象無象の魑魅魍魎。その城中を幸村は確固たる意志で己の信じた道を邁進する。
 敵はもちろんのこと味方も、はたまた肉親でさえも、武将たちが口にしたことばは「幸村を討て」。
 徳川家康、織田有楽斎、南条元忠、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永、真田信之。
 敵陣で、対峙して、背後から、遠く彼方から、それぞれの複雑な感情から口を衝いたそのことば。そこに至った大坂の陣での真田の戦いとは何だったのか。

 冒頭からテンポよく進み「あれ? もう主役が死んじゃうの?」と思った導入部。家康本陣に迫りつつもその首を取ることは叶わなかった幸村。戦後処理の中、そのことが腑に落ちない家康は自らの手によって真相を解き明かそうと六人の証人を尋問してゆく。彼らから重層的に語られるエピソードが徐々に大坂の陣の真実を明らかにしてゆく様は、さながら油絵のよう。それは下地から塗り重ね丹念に描かれた戦国絵巻。
 史実に沿いつつも多彩な登場人物の新たな視点で語られる真田幸村というさむらいの真実。各章の合間に挟まれた大坂城に入るまでの幸村を形成したであろう、幼少期からを描いた掌編がより一層、真田幸村という武将をくっきりと立体的に浮かび上がらせる。
 そして、立体的になることでまた真実を歪ませる。

 個人的に惹かれたのは「南条元忠」と「淀殿」の描き方。それまでに描かれていない魅力にあふれた、想像力を掻き立てる人物像。悲劇しか待ち受けていない彼らの凛とした美しさ。
 語りつくされた大坂の陣に新たな光を与えた今村翔吾の代表作とも呼ぶべき作品です。

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(2022年4月8日)

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