週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.38 うなぎBOOKS 本間 悠さん

週末は書店へ行こう!

きみだからさびしい書影

『きみだからさびしい』
大前粟生
文藝春秋

 あの頃、星占いは「恋愛」の欄を真っ先にチェックして、思いが通じるだの通じないだの、そんな記述に一喜一憂した。まだアルバイトだし、十分に健康だから、それ以外の欄に必要性を感じなかった。恋愛は、今振り返るととても簡単だった。男は女が好きで、女は男が好きだった。そして、「一人」が好きな人は、当たり前に「一人」で、それ以外のケースは「フタマタ」だとか「ウワキ」だとかで、一律「不誠実」だと断じられた。時代が変わってしまったのではない。色んなものが、見えていなかっただけだ。

 

〝恋愛って、今出来ますか?〟

 

『きみだからさびしい』の登場人物・町枝圭吾くんは問いかける。

 24歳の健全な男性から発せられるこの言葉は、見事に〝今〟を象徴しているようで、どきりとさせられる。

 私たちの視野は広くなった分だけ気にすべきことも増えた。相手の気持ちを推し量り、正しくあろうとすればするほど、誰かを好きになるハードルは上がる。恋愛に消極的になってしまう。

 

 そんな町枝くんが好きになったのは、27歳のあやめさんだ。

『ハチミツとクローバー』の名場面、〝人が恋に落ちる瞬間を見てしまった〟かの如く、出会いの瞬間からもう、町枝くんはあやめさんにぐんぐんと傾いてゆく。

 出会いから1年以上たっぷりと逡巡し、片思いのような両思いのような期間(この期間の眩しさったら!)を経て、町枝くんはついに想いを告げるのだが…

 

〝「私さ、ポリアモリーなんだけど、それでもいい?」〟

 

 ポリアモリーとは、互いの合意の元で、複数のパートナーと関係を築く恋愛スタイルのこと。かの叶恭子さんがポリアモリーであることを公言しているが、日本ではまだまだ馴染みの無い価値観ではないだろうか。

 あやめさんが好き。そしてあやめさんも、付き合ってもいいと言ってくれている。だけどあやめさんには、既にマッチングアプリで出会った恋人、蓮本さん(同じくポリアモリー)がいる。

 自分を選んでほしい、出来れば、自分だけを。

 想いは確かに通じたのに、価値観の違いが町枝くんを苦しめる。

 悩んだ末に出した結論は、是非本書でお読みいただければ。

 

 恋愛は複雑化したんだろうか。

 もし恋愛に説明書があるとしたら、確かにこの数十年で、一気にページ数が増えたかも知れない。しかし時代がどんなに変わろうとも、人の心は同じ成分で出来ている。

 たった4日会えないだけで、身悶えしてしまう切なさも、どんなに悩んでも「好きだから」で駆け出してしまう気持ちも、どれも私が懐かしく思い出せる、あの頃から変わらないものだ。

 高くなったハードルは、くぐり抜けたっていい。

「こうでなければ」の呪縛から解き放たれた新しい時代の恋愛小説は、変わったものと、変わらないものが、キラキラに詰まった宝石箱のようだった。

 

 

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遠野 遥 
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ぷくぷく書影

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(2022年2月18日)

採れたて本!【ライトノベル】
田島芽瑠の「読メル幸せ」第48回