週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.50 啓文社西条店 三島政幸さん


 ミステリ小説では事件の顛末が描かれるのが普通だが、その場合の最大の焦点(読みどころ)はなんだろうか?
 もちろん、「この事件の犯人は誰なのか?」であろう。犯人は誰なのか? の謎は、俗に「フーダニット」と呼ばれている。
 ミステリによっては、犯人の意外性よりも「動機」の特殊性に主眼を置いた作品も多く存在する。それらは「ホワイダニット」(動機探し)と呼ばれている。

 しかし、ミステリの一部には、「犯人探し=フーダニット」でも「動機探し=ホワイダニット」でもない部分にポイントが置かれる小説が時々登場する。
 今回は、そんなタイプの傑作ミステリ短編集を紹介したい。

#真相をお話しします

『#真相をお話しします』
結城真一郎
新潮社

 5つの短編からなる作品集、どんな話かというと──。

 家庭教師派遣会社の営業バイト・片桐が向かったのは、矢野悠くんという小六の男の子の家庭。実際に面接をして家庭教師を派遣するかなど、今後の方向性を決めるのだ。応対した母親は悠くんに喋らせようとするが、内気なのか、なかなか自分のことを話そうをしない……「惨者面談」

 マッチングアプリで知り合った女の子を次々に「お持ち帰り」している「ケント」の今度の標的は「マナ」だ。マナの部屋に行き、シャワーを浴びたまでは良かったが、部屋に戻るとマナの他に見知らぬ男がいて……「ヤリモク」

 不妊で悩んできた経験から「精子提供」をしていた「僕」の元に、その精子提供をした女性から生まれた「実の娘」、今は14歳になる翔子が面会を希望してきた……「パンドラ」

 東京在住の桐山は、関西の友人二人、茂木・宇治原とリモート飲み会をしていたが、宇治原から突然〈いまからあいつを殺しにいく〉とチャットメッセージが届いた。確か二人が住むマンションは向かい同士のはずだ。しかし、画面から消える直前に宇治原が桐山に送ってきた写真は、桐山をも絶句させるものだった……「三角奸計」

 長崎の西の島・匁島(もんめじま)は島民約150名。そのうち小学生は4人だけ。元々島にいる立花凛子と、家族で移住した桑島砂鉄、安西口紅(ルージュ)、そして僕・渡辺珠穆朗瑪(ちょもらんま)だ。島育ちの小学生 YouTuber として活動していた僕たちだったが、ある日を境に、島の人々が急によそよそしくなって……「#拡散希望」

 どれもほんのさわりしか書いていない。もっとも、読者が想定するものとは全く違った展開を見せていくので安心してほしい。

 この短編集で描かれる事件には共通項がある。どれも、「何が起こったのか」が最大のポイントである、という点だ。読み進むにつれて、読者はなんらかの「違和感」をおぼえるはずだ。その違和感の正体が判明した瞬間に、物語の謎が大きく動いていく。どの作品も最後に辿り着く真相に、衝撃を受けること必至なのだ。

 本稿の冒頭で、ミステリ小説の読みどころとして「フーダニット」「ホワイダニット」がある、と書いたが、このような「何が起こったのか」系の謎のことを「ホワットダニット」と呼ぶ。本作は、収録作品の全てが「ホワットダニット」の傑作なのだ。

 結城真一郎さんは『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞してデビュー。単著としてはほかに『プロジェクト・インソムニア』『救国ゲーム』のみで、本書が4作目。まだキャリアはこれからといったところだが、本書収録の短編「#拡散希望」で日本推理作家協会賞を受賞(短編部門)、また『救国ゲーム』は本格ミステリ大賞の候補になるなど、いま注目の書き手だ。『#真相をお話しします』で、さらにステップアップしていくに違いない。

 

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 好きな人の身体に触れると、その人の未来、しかもバッドエンディングが見える特殊体質の凜太郎。大晦日の花火大会の夜にキスした相手・立花の未来を見てしまった凜太郎は、その悲劇を阻止できるのか……。本書も、ある仕掛けの部分が「ホワットダニット」に分類できる。二度読み必至の傑作。

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