週末は書店へ行こう! 目利き書店員のブックガイド vol.42 啓文社西条店 三島政幸さん
『ルームメイトと謎解きを』
楠谷 佑
ポプラ社
全寮制の男子高・霧森学院。生徒の大半は新寮にいるが、旧寮「あすなろ館」の住人は6人だけ。入寮希望者がいないのは、施設がボロだからというのもあるが、昨年、「ある事件」が発生したため敬遠されるようになったから、というのが大きい。
その「あすなろ館」に新たな転入生・鷹宮絵愛(エチカ)が入寮してきた。以前からの住人、兎川雛太(ヒナタ)と同部屋になったが、エチカは初対面ですぐにヒナタの部活を言い当てた。どうやら、優れた観察眼の持ち主らしい。
ある日、あすなろ館の住人、園部がイグアナのケースを抱えて階段を降りている時、何者かに突き落とされる事件が起きた。先生に報告する前にいきなり警察に通報するエチカ。刑事がやってきて、事が大きくなってしまう。
しかしその後、本当に大きな事件が起きてしまった。生徒会長・湖城龍一郎が校舎とあすなろ館の間の遊歩道で刺殺されていたのだ。
周辺の状況から、犯人はあすなろ館に逃げたとしか思えなかった。犯人はあすなろ館の住人なのか……。
殺人事件の容疑がエチカに向けられていると知ったヒナタは、エチカの無実を証明するため、刑事とは別に自分たちだけで事件の推理に挑んでいく。
『ルームメイトと謎解きを』は一見すると、軽めのキャラクター青春小説のように始まる。エチカという強烈なキャラクターと、そのバディ的存在になるヒナタの会話で楽しく読み進むことができる。
しかし、ストーリーはなかなかに重い。あすなろ館で起きた過去の「ある事件」とは、いじめがきっかけで起きた生徒の自殺事件なのだ。
真骨頂は、なんといっても、解決編だ。
エチカは関係者全員を食堂に集め、データをひとつひとつ挙げながら、容疑者を絞り込んでいく。
「名探偵、皆を集めてさてと言い」のよく知られた川柳のごとく、黄金時代の本格ミステリのような展開だ。
この消去法推理が本当に素晴らしい。推理によって容疑者が減っていき、ついに残ったのは……ここからはさすがに書くわけにはいかないが、予想外の展開に驚くはずだ。そして、事件の真相には、なんとも言えない感情が湧き起こる。
軽い気持ちで読んでいると、最後には痛い目に遭うような作品だ。
が、同時に、青春ミステリとしての側面も忘れていない。
エチカとヒナタの相棒(バディ)小説としての読み応えも充分なのだ。
楠谷さんは1998年生まれという大変に若い書き手。この若さにしてこの読み応えとミステリセンスは、ちょっと嬉しい気持ちになる。
これからの活躍を期待せずにはおれない。