◎編集者コラム◎

『からころも 万葉集歌解き譚』篠 綾子


からころも


 わが国最古の歌集である万葉集。短歌をはじめとする4,500首の和歌が収録されています。『万葉集』といえば、元号「令和」が、万葉集に書かれた一節を基にしたものだと判って話題になりました。

 本書『からころも 万葉集歌解き譚』は、万葉集に収められた和歌が多数紹介される小説です。

 時代は江戸時代半ば。主人公は、まだ子供の助松です。助松の父親・大五郎は、日本橋の薬種問屋・伊勢屋の手代でしたが、1年半前に富山に仕事で出かけ、行方不明となってしまいました。一人残された助松は、伊勢屋の小僧となります。手元には、父から誰にも見せぬように言われた日記を預かっていましたが、そこには万葉集の歌がいくつか綴られていました。その歌には父の行方不明になった鍵が示されていると気づいた助松は、歌の意味を教えてもらおうと考えました。歌の先生となってくれたのが、伊勢屋の一人娘しづ子と客の葛木多陽人でした。しづ子は、当時『万葉集』の研究で著名だった賀茂真淵と手紙のやり取りをするくらい熱心に和歌を学んでいましたし、多陽人は京都生まれの占い師で、先祖代々陰陽師だったという家系で、持って生まれた美貌が目を引きました。何より、伊勢屋主人の平右衛門の腰痛を完治させたことで、店では大切な客とされていました。

 日記に書かれた歌とは、たとえば、

からころも 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来のや 母なしにして

 でした。こうした歌を大五郎がなぜ書き残したかを考えていくと、大五郎が隠して来た過去がわかって来ました。

 そして、ある偶然からしづ子は大友主悦と名乗る侍と知り合います。頼まれて歌の手ほどきをするようになりますが、今度はしづ子が家を出て行ってしまいます。実は、しづ子と大五郎の失踪には関係があったのです。どうやら、富山藩を揺るがす内紛が関わっているようでした。果たしてその真相とは!? 二人の行方は!?

 また、江戸時代には「狂歌」という時の為政を笑い飛ばすような歌も作られていました。本書では、大伴家持の和歌を多陽人が狂歌に作り直して披露する場面があります。これまで発表された小説の多くに和歌を登場させている篠綾子さんによる自作だと思いますが、和歌に詳しい著者ならではだと思います。

 本書は、謎解きを楽しむと同時に、万葉集の和歌の魅力も感じていただける小説になりました。

──『からころも 万葉集歌解き譚』担当者より

からころも 万葉集歌解き譚