◎編集者コラム◎ 『臨床の砦』夏川草介

◎編集者コラム◎

『臨床の砦』夏川草介


臨床の砦写真
文庫化にあたり、装幀もリニューアル。
石居麻耶さんの描く美しい星空に、希望を託した。

 作家の夏川草介さんといえば、デビュー作『神様のカルテ』(第十回小学館文庫小説賞受賞作)が、自他ともに認める代表作かと思います。シリーズ5作で344万部の『神様のカルテ』シリーズは櫻井翔さん、宮崎あおいさん主演で2度映画化され、福士蒼汰さん、清野菜々さんの主演で2時間×4回の大型スペシャルドラマ化もされましたので、ご記憶の方もいらっしゃると思います。『神様のカルテ』は信州で「24時間365日対応」の病院に勤務する、夏目漱石好きの内科医栗原一止を主人公とし、命と向き合う医療現場をリアルに描きつつも、作中にはユーモアと希望があふれていました。

 2022年6月7日に発売となる文庫『臨床の砦』の主人公・敷島寛治は長野県でコロナ感染症医療機関に勤務する消化器内科医です。第3波がもっとも猛威を奮った2020年年末から21年2月に、信州の小さな病院がいかにしてコロナと戦ったかを描いています。現在もコロナ感染症指定医療機関に勤務している夏川氏が、自らの経験をもとに克明に綴った記録小説です。主人公の敷島は、コロナ患者が病院に押し寄せ、ベッドの満床が続き、一般診療も崩壊している病棟の様子を見て、「この戦、負けますね」と同僚たちに告げます。他の病院はコロナ診療に手を挙げず、お役所も危機を理解してない。コロナ感染症指定医療機関なのに専門の呼吸器内科医は一人もいない。自分たちも感染するのではないか、泣き出す看護師もいるなかで、なぜこの小さな砦(病院)はギリギリで持ちこたえるのができたのでしょうか。

 自分たちの知らないところで、医療従事者の方々が、どんな日々を送っていたのか。本書をお読みいただければ、一時より沈静化はしつつ終わりの見えないコロナ禍を「耐えているのは自分だけではない。皆で助け合って乗り越えていこう」という気持ちになっていただけるのではないかと思います。

『臨床の砦』でコロナ医療の最前線を描写するにあたり、ユーモアを挟み込む余地はありませんでしたが、「それでも希望を描くことは捨てられなかった」と著者は言います。希望を描くという意味において、『神様のカルテ』と『臨床の砦』は、深く繋がっているのです。

──『臨床の砦』担当者より

臨床の砦

『臨床の砦』
夏川草介

◇長編小説◇里見 蘭「漂白」連載第194回
ゲスト/大前粟生さん◇書店員が気になった本!の著者と本のテーマについて語りまくって日々のモヤモヤを解きほぐしながらこれからの生き方と社会について考える対談◇第13回