◎編集者コラム◎ 『すべてあなたのためだから』武内昌美

◎編集者コラム◎

『すべてあなたのためだから』武内昌美


『すべてあなたのためだから』写真
この帯コピーにドキッとしたら、
本作品に呼ばれている証拠……かもしれません。

 突然ですが、私、中学受験を失敗した者です。
 いや、今になって振り返ってみれば、〝しかたなく〟進学した公立中学校で得た出会いや、公立高校で経験したこと、すべて私の血肉となっていて、否定するものなどひとつもありません。なんなら中学受験の経験そのものも記憶の彼方に埋もれていたくらいですから、「失敗」は言いすぎな気もします。
 なので、本作『すべてあなたのためだから』を初めて読ませてもらったとき、中学受験生時代の記憶が次々湧き上がり、とても感慨深く当時を思い出しました。

 本作の主人公は平凡な主婦、良子。夫と小学4年生の娘・菜摘と暮らしています。セレブなママ友、麗香は良子の憧れ。娘同士も同い年で仲良しです。ある日、良子は麗香から中学受験の誘いを受けます。菜摘は勉強が得意でないものの、友達と一緒にいたいと塾に行くことに。初めての試験で偏差値39という結果に愕然とするも、あるきっかけで菜摘は意外な才能を発揮、みるみる成績を上げていきます。
 娘の限りない可能性に気づいた良子は有頂天に。しかし、それを知った麗香は突如態度を豹変。その先に待っていたのは、壮絶な母親同士のエゴのぶつかり合いでした……。

 ここで描かれるのは、さまざまな「愛」。娘への愛であり、母への愛であり、友人への愛であり、それぞれの「自分への愛」も。それが歪んで発露してしまったとき、どんな事態になるのか。中学受験の先にありえた世界だと考えれば、自分の身にも起きたかもしれず、また今まさに隣の家庭で起きているような怖さをもったリアリティある作品です。

 受験生時代の私には、登場人物みなが持っている狂おしいほどの熱はなかったように記憶しています。過熱し続ける中学受験という、極限まで精神状態が高まった状態だからこそ生まれたドラマなのでしょう。
 まさに受験シーズンのいま、笑う人がいれば泣く人もいる。でもいずれは「そんなこともあったなあ」と懐かしく感じられるようになるはず。頑張れ受験生、そして受験生の親御さんたち。みなさんによい未来がありますように。

──『すべてあなたのためだから』担当者より

すべてあなたのためだから

『すべてあなたのためだから』
武内昌美

作家を作った言葉〔第14回〕寺地はるな
『口福のレシピ』文庫化記念 特別対談 ◆ 飛田和緒 × 原田ひ香