採れたて本!【海外ミステリ#40】

ドーン・ブルックス『ニューヨーク・クルーズにぴったりの失踪』は警官レイチェルと看護師サラの活躍を描いたシリーズ第二弾なのだが、帯を見て驚かされた。「クルーズ船コージーミステリ第2弾!」と書いてあったのだ。思わずアッと声を上げたのは、作者の邦訳第一作『地中海クルーズにうってつけの謎解き』も、船の上での殺人事件を扱っていたのを覚えていて、二作連続でクルーズ船が舞台であることに気付いたからだ。まさかと思って巻末の著作一覧を見ると、第三作が〝Killer Cruise〟、第四作が〝Dying to Cruise〟など、ずらっと並ぶシリーズ十五作品のタイトル全てに「Cruise」の文字が含まれている。著者ドーン・ブルックスはクルーズ船旅行が趣味だというが、このシリーズは作者の趣味全開の、クルーズ船ミステリシリーズなのだ。
船を舞台にしたミステリには名作が多い。アガサ・クリスティー『ナイルに死す』はもちろん、マックス・アラン・コリンズ『タイタニック号の殺人』やクライブ・カッスラー『タイタニックを引き揚げろ』など特定の船(タイタニック)を題材に選んだものもあるし、キャサリン・ライアン・ハワード『遭難信号』など近年にも傑作が多い。コージーミステリとの掛け合わせでも、若竹七海『名探偵は密航中』やC・A・ラーマー『危険な蒸気船オリエント号』が思い浮かぶ。とはいえ、多くの場合は長期シリーズの一作だったり、キャリアの中で一作だけ書いていたりといったぐらいで、シリーズ全作クルーズ船が舞台というのは、寡聞にして例を知らない。
今作ではモスクワでの謎めいた殺人に端を発する殺人劇が描かれるが、読者には第一章でその情報だけがポンと与えられるので、機関室の乗組員の死と失踪事件が発生しても、一見して繫がりはまだ分からない。敵はかなり危険な存在だし、寄港地がないことが舞台の閉塞感を高めている。レイチェルとサラの名コンビは前作から健在で、やはり二人がお互いに寄せる信頼が読ませる。警官と看護師、という組み合わせがいいのかもしれない。船上の医師、看護師の忙しさを語る場面は一種のお仕事小説にもなっている。
思い返すと、テレビドラマ『刑事コロンボ』の一エピソード「歌声の消えた海」でも、犯人が心臓発作を装って医務室にもぐりこみ、それをアリバイとしていたために、船上の看護師や医師が重要なポジションになっていた。船とミステリの相性がいいように、船の事件を語るのに、看護師の視点はうってつけなのかもしれない。
評者=阿津川辰海






