【著者インタビュー】東川篤哉『新 謎解きはディナーのあとで』/毒舌執事探偵×お嬢様刑事の大人気ミステリーシリーズ最新作!

執事とお嬢様のコミカルな応酬が楽しい、累計420万部を突破したミステリーシリーズが、新キャラを加えて待望の新章に突入! 9年ぶりとなる新作執筆の背景を、東川篤哉氏に訊きました。

【ポスト・ブック・レビュー 著者に訊け!】

執事探偵×令嬢刑事の名コンビに魅力的な新キャラも登場! 冴えわたる推理から目が離せない大人気ミステリシリーズ新章突入!!

『新 謎解きはディナーのあとで』

小学館
1600円+税
装丁/高柳雅人 装画/中村佑介

東川篤哉

●ひがしがわ・とくや 1968年尾道生まれ。岡山大学法学部卒。96年より『本格推理』等に短編を発表し、02年に新人発掘プロジェクト・KAPPA-ONEにて『密室の鍵貸します』でデビュー。烏賊川市シリーズや鯉ヶ窪学園シリーズなど多くの人気シリーズを持ち、11年『謎解きはディナーのあとで』で第8回本屋大賞第1位。櫻井翔・北川景子出演で映像化もされた。他に『館島』『もう誘拐なんてしない』等。17年より本格ミステリ作家クラブ第5代会長。165㌢、64㌔、O型。

同じ手は二度と使えない切羽詰まった状況でアイデアを日々捻り出している

〈失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか〉等々、頭脳明晰にして傍若無人な執事兼運転手〈影山〉と、実はかの宝生財閥の令嬢で国立署刑事〈宝生麗子〉のコミカルな応酬が楽しい、東川篤哉著『謎解きはディナーのあとで』シリーズ。
 待望の新章では影山の名推理のおかげもあって本庁に栄転後、結局は所轄に戻された〈風祭警部〉の復帰と超天然な後輩刑事〈若宮愛里〉の加入が、5つの殺人以上の事件と言えよう。
 これまでの東川作品同様、「風祭警部の帰還」から「煙草二本分のアリバイ」まで、全5編に漂う脱力系ユーモア自体が、読者を油断させ、注意力を散漫にする謎や伏線の隠し場所。そもそもユーモアミステリとは笑いをもロジックに使った本格推理小説のことであり、「論理や手掛かりを笑いにまぶして語るのが理想」と、斯界の第一人者は言う。

 ちなみに著者には『私の嫌いな探偵』(13年)といういかにも人を食った表題の作品があるが、毒舌執事とお嬢様刑事による安楽椅子探偵物という設定はまさに、「みんなが大好きな設定、、、、、、、、、、」だったのだと、累計420万部を突破したこの国民的シリーズに改めて思う。
「『退職刑事』(都築道夫)に形態は近いかもしれません。捜査権を持たない探偵役が、現場の情報を人づてに聞き、推理は主に家の中や食卓で、、、、、、、披露されるという。
 その隔靴掻痒かつかそうよう的な感じが安楽椅子物の魅力でもありますし、この新章では麗子はお騒がせな上司に加え、新人の面倒まで見ることになり、家に帰っても影山にイジられるのが気の毒なくらい、疲れている(笑い)」
 ここで経緯を簡単に説明すれば、『謎解きはディナーのあとで ベスト版』(19年)所収の書き下ろし短編で、とある政治家の怒りを買い、本庁を追われた風祭の左遷先が今再びの国立署。愛里は当初、その風祭が戻るまでの繋ぎ役として登場させたに過ぎなかったとか。
「僕の中では影山と麗子と風祭の3人でこの話はほぼ完成していて、新キャラを出す予定はなかったんです。編集部の意向で2話以降も出すことにしたんですが、確かに天才と愚才の紙一重感はあるし、風祭を超えるモンスターに化けてもおかしくはないキャラかも」
 そしてお約束通り純白のスーツに身を包み、愛車ジャガーの爆音と共に現われた風祭モータースの御曹司と麗子がまず手掛けるのは、自室の天井から首を吊った状態で発見された変死体の謎である。死亡者は国枝物産社長〈国枝芳郎〉の実の長男で同取締役の〈雅文〉35歳。発見者は芳郎と子連れで再婚した妻〈久江〉と家政婦の〈竹村〉。通報者は久江の連れ子で雅文と1歳違いの義弟〈圭介〉だった。
 その日の午後3時頃、雅文は仕事があると言って2階の自室にこもり、7時過ぎに竹村らが彼を呼びに行って死体を見つけた。屋敷には雅文、圭介、久江、竹村の他、圭介の友人〈木村〉がおり、現在療養中の当主が集めた美術品を圭介と見て回り、雅文の部屋も6時頃訪ねたが、誰もいなかったという。遺書はなかった。
 仮にこれが殺人とすれば、犯行は圭介らが兄の部屋を訪ねた6時から、竹村らが遺体を発見した7時の間。風祭はさっそく弟の圭介が怪しいと決めてかかるが、彼には木村といた5時以降、完璧なアリバイが。麗子もまた弟の関与を疑うものの、6時の時点で部屋に死体はなかったという木村の証言は動かしがたく、帰宅後、頭はいいが口は最高に悪い執事に助言を仰ぐのだった。

ダイイングメッセージの信憑性

「ほぼ10年ぶりですからね。彼らがどんなキャラかとか、結構忘れていることも多くて。特に風祭はここまで推理らしい推理はしなかった気もしますが、本庁で多少揉まれたのか、今回はいちおうそれらしいけど間違っている推理を披露します。
実はこの『間違った推理を語る役』というのが結構難しいんです。僕自身は映画の方の金田一シリーズで加藤武演じる警部が『よし、わかった!』と早合点する感じが好みで、ああいう面白さを風祭にも感じてもらえたら嬉しい」
 それこそ推理小説史上、個性的な攪乱役は代々誕生し、先人の蓄積の上にこそ新たな謎やトリックが考案される敬意と更新の系譜も、本格物の魅力のひとつだ。
 例えば第2話「血文字は密室の中」は、ダイイングメッセージもの。内側からかんぬきまでかかった土蔵の中で失血死していた骨董好きな〈下入佐勝〉が遺した血文字は、彼と揉めていた骨董商〈中田〉を示すのか。また風祭が自信満々に主張する〈内出血密室〉説―つまり凶器が傷に蓋をした状態で被害者が自ら移動し、内から鍵をかけるなどした密室内で息絶えるケースに下入佐も該当するかを巡って捜査は二転三転。真相を見抜くのはまたも影山なのだが、内出血密室と聞いただけでニヤニヤしてしまう読者も少なくないはずだ。
「僕も幾つか内出血密室の話は書いていますけど、今回は密室云々より血文字と組み合わせた点、、、、、、、、、、、が新しいと思う。ダイイングメッセージって捏造もされやすいし、何の証拠にもならないことがほとんどなんですよ。その信憑性が内出血密室の場合は上がるとか、既存の枠組みに自分なりの更新を施すわけですけど、リスペクトはあるのかなあ……。それより何より、人と同じ手は二度と使えないという切羽詰まった状況の中で、何とかアイデアを日々捻り出しているだけという方が正確な気もします(苦笑)」
 その論理を以て人を楽しませ、伝統と革新の両立をも実現する姿勢が、何より健全で贅沢で面白いのである。

●構成/橋本紀子
●撮影/喜多村みか

(週刊ポスト 2021年4.16/23号より)

初出:P+D MAGAZINE(2021/04/18)

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