◎編集者コラム◎ 『人面島』中山七里

◎編集者コラム◎

『人面島』中山七里


『人面島』写真

 人面瘡、というものをご存じでしょうか。「横溝正史の?」という方はミステリマニアかも。〈金田一耕助〉シリーズの短編にズバリ「人面瘡」という作品がありますね。最近(と思って確認してみたら、2016年刊行でした。8年前!)では白井智之さんの『おやすみ人面瘡』という作品も。

 どうやらミステリと相性のよいらしいこのモチーフ、古くは中国、唐の時代に書かれた随筆に登場するようです。日本では江戸の時代に妖怪や(架空の)奇病として書物に残されているものもありました。

 いずれも共通するのは体の一部に出来た腫物が、人間の目や口の形を成すようになったということ。食べ物や酒を口にしたり、しゃべったりするやつもいたようですが、なかには薬や僧侶の読経で治癒した、というエピソードもありました。

 さて本書『人面島』の主人公、三津木六兵の肩には人面瘡があります。いや、います。あろうことか六兵はこの人面瘡に「ジンさん」と名前を付けているのです。さらにこのジンさん、宿主である六兵よりもよっぽど頭の回転も速く弁舌が立つ。つまりどちらが主人なのかもよくわからない状態なのですが、誰よりも六兵を理解しているジンさんを、六兵自身も信頼しています。

 そんな六兵(&ジンさん)が山林王の遺産相続事件に巻き込まれたのが、前作『人面瘡探偵』。とんでもない設定にもかかわらず、たいへん人気を博し、今回めでたく第2作を文庫化するはこびとなりました。

 ところでシリーズの文庫化あたり最初に悩んだのがカバーデザインでした。単行本はイラストレーターの佐久間真人さんにお願いしましたが、文庫化にあたりwelle designさんにご相談。そこで提案いただいたのが伊藤博敏さんの造形作品でした。自然石に異素材を組み合わせ、そこに新たな命を吹き込んだ作品は、本来そこにあるはずのない意志を生み出す人面瘡の表現にピッタリなのでは!?

 第1弾『人面瘡探偵』では、伊藤さんの「口の堅い奴ら」のお写真をお借りして装丁をデザインしてもらったところ、これが大好評。第2弾となる『人面島』はさらに別作品をお借りしてインパクトのある装丁を作ってもらいました。まさに「書店で目が合う!」やつです。このカバーが目印です。目が合ったらぜひ手に取っていただきたい。ミステリ×怪異×毒舌。おもしろさは保証付きです。

──『人面島』担当編集者より

人面島
『人面島』
中山七里
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