【官能小説】ぼくの考えた最強のベッドシーンを添削してください【前編】

官能小説の“華”といえばベッドシーン! 究極の官能を目指すべく、20代・30代・40代の素人が書いた「濡れ場」を、鬼才・団鬼六氏の担当編集も務めたベテラン編集者に添削してもらいました。

 

目次

1. ある日の編集部

2. まずは官能小説の歴史を知ろう

3. “エロ小説のプロ”が考える、「濡れ場の底力」とは

4. (20代)「読む価値ナシ」!? そそられないのは◯◯のせい。

5. (30代) 草食系・お尻フェチの「しくじりポイント」

6. (40代) モンスター登場! おっさんの、おっさんによる、「ヤバすぎるベッドシーン」

【登場人物】

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松村先生(55歳)
長年にわたって官能の世界に生きてきた、海千山千の編集者。あの団鬼六氏とも長年一緒に仕事をしていた。

オオウエくん(22歳)
遊びたい盛りの社会人1年目。性への純粋な好奇心に突き動かされており、「こんなお姉さんとこんなことがしてみたいな〜」という妄想を日々膨らませている。

加勢 犬(31歳)
妻子持ち。20代の期間に一通りのことを経験してきたため、男女の心理的な駆け引きや、生々しい情交の場面よりも、身体的細部に宿るフェティッシュにファンタジーを膨らませている。

太田さん(43歳)
バツイチ。性の実践から長年遠ざかってしまったため、かえって少年のようにエロを貪欲に求めるようになった。若かりし頃のアイドルは酒井法子。

 

ある日の編集部

ある日、P+D MAGAZINE編集部の若手メンバーであるオオウエくんが、上司である加勢 犬センパイの目をぬすんで、性愛描写で発禁処分を受けたD. H. ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』を読んでいました。

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オオウエ:「彼女は彼の服をぐいとひっぱり……彼の腹に口づけをした。それから……彼のあたたかい……」

う〜ん、たまんないなあ、しびれるなあ。

 

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犬:ちょっとオオウエ、任せたい仕事があるんだけどこっち来てくれない?

 

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オオウエ:すんません、今ちょっと立てないっす。

 

犬:あ、『チャタレイ夫人』じゃん!まーた、仕事サボってエロい小説ばっか読みやがって!

 

オオウエ:おれ、官能小説家になるのもアリかな〜なんて思ってるんすよ。官能って、なんつーか、“夢”じゃないですか? おれ、みんなに夢を届けたいっす!

 

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太田:あまーい!これだから最近の若者は!

 

犬:あ、濡れ場批評に定評のある太田のおっさんじゃないですか。

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太田:さっきから隣で聞いてれば、なめくさったことばかり言いよって。一朝一夕で官能小説家になれるなんて大間違い! プロとして認められるためには「個性」と「共感力」がないといかん。

個性のない書き手は、どれだけエロい妄想を巧みに膨らませたところでそれを読者に届けることはできないし、ひとりよがりのエロは犯罪に等しいからね。オオウエくん、君にその素質があるかい?

 

オオウエ:さすが、濡れ場批評に定評のある太田さんだ、言うことが違うぜ……。

 

太田:「物は習え」だよ、オオウエくん。僕が仲良くさせてもらっている官能小説の編集者さんに連絡を取るから、各自の考えた「最強のベッドシーン」を添削してもらうことにしようじゃないか!

 

犬:なんだこの急展開……。

 

(こうして、20代、30代、40代の3人は、「ぼくのかんがえたさいきょうのベッドシーン」を松村先生に添削してもらうことになったのだった)

 
 
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松村先生登場! 官能小説の歴史を知ろう

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太田:ということで、「官能の生き証人」である編集者の松村先生にお越しいただいた。

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松村先生:お呼びいただき光栄です。

 

犬:先生が官能小説のお仕事を始めるきっかけはなんだったんですか?

 

松村先生:もともと官能小説が大好きでというわけではなかったんです。ただ、30年近く前に、沼正三先生の『家畜人ヤプー』団鬼六先生の『花と蛇』の復刻に編集者として携らせていただく機会があって。両先生の作品を読み込むうちに、段々と自分の性癖を呼び覚まされてしまい……というのが事の始まりでしたね。

 

犬:錚々たる作品!

 

松村先生:団先生とは、その後も亡くなる直前まで、一緒にお仕事をさせていただきました。その中で、先生の無頼な生き様の部分も含めて、「官能とはかくあるべし」という感覚を身につけていきましたね。

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オオウエ:長年のご経験からして、官能小説というジャンルにはどのような変化がありましたか?

 

松村先生:これは僕個人のザックリした考えなのですが、官能小説のこれまでの歴史は大きく4つの時代区分に分けられると思います。〈第1期〉は、芥川龍之介など純文学系の作家がペンネームを変えて書いていた猥褻文が地下流通していた時代。これは好事家たちを喜ばせました。

〈第2期〉は終戦後。まずは、いわゆるカストリ雑誌がブームになって、「昨日、隣の奥さんとアレコレしちゃった」みたいな、体験手記的なエロ描写が好まれました。様々な版元が出てきては消え、出てきては消えを繰り返しながら、雑誌としての生き残りをかけていたのでしょう。各誌、3号ぐらいで消えてゆくわけですが、いかにその3号で読者を掴むか。官憲の目を巧みに避けながら、過激さも含めて、作品の競争が生まれたんでしょうね。

この競争の中で、それまでの「実用に足りればいい」というカストリ文化に比べてグッと物語性に富み、時代背景もふんだんに盛り込んだ作品が登場します。団鬼六先生などがまさにその主役になっていくわけですが、ここで官能小説の地位向上が起こったんですね。雑誌でいうと、『裏窓』や、『奇譚クラブ』などの雑誌が登場するのもこの頃です。

とはいえ、この頃にはまだ、こっそり買われる雑誌にとどまっていたのですが、〈第3期〉には、「官能小説は売れるぜ!」ということになって、官能小説が一気に商業化します。それこそ、皆さんご存知のフランス書院さんであったり、マドンナメイト文庫さんや、グリーンドア文庫さんであったりといった官能レーベルが誕生し、「文庫」という形で官能小説という枠組みを作り直しました。つまり、官能小説が表舞台についに登場してくる。

 

太田:青春時代にお世話になりました。

 

松村先生:官能小説がジャンルとして様々なノウハウを磨いていったのは、この第3期ですね。それで、〈第4期〉にあたる現代までくると、そのノウハウが熟成されていって、官能小説の勝負ポイントが細分化されていきました。それは、キャラクターの魅力だったりもするし、ベッドシーンの凄さだったりもする。もしくは時代のトレンドとして「草食系男子」という言葉が出てきたら、草食系男子を童貞卒業に導くようなヒロイン像を設計したり、だとか。多様な需要があるなかで、官能小説を売るための戦略が作られていきました。

 

犬:カフェブームみたいに「セカンドウェーブ」や「サードウェーブ」があるんですね。すごい。めっちゃ勉強になる。

 

“エロ小説のプロ”が考える、「濡れ場の底力」とは

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太田:官能小説の歴史についてご教授いただいた折に恐縮ですが、「エロは時代を問わない、普遍的なもの」という意見もあるかと思います。個人的にも、「人間の性欲は原始時代からそんなに変わらないのでは」と思っていますし。官能小説が時代にあわせて変遷した理由はどこにあるのでしょうか?

 

松村先生:官能小説は結局、それを読んで「性的にそそらせることができるか否か」が勝負です。そのためには、時代背景をどこかで掴んでいないと、リアルに感じられないんですね。もちろん設定などはファンタジーの枠内ではあるのですが、「時代のリアル」が欠落していると、目指すところの物理的な反応まで至らない。そういう意味では、官能小説は最も時代に敏感なジャンルなのかもしれません。

 

太田:「これはエロい」と唸るような設定は、時代によって異なるということなんですね。アソコは時代に敏感である、と!

 

松村先生:(笑)もちろん、「設定」だけではエンターテイメントとして成立しません。官能小説の目的は「快感を追体験させることによって、自家発電できるようにしてあげる」ことですから。追体験のためには、設定に「時代のリアル」が必要だというのは今も言った通りですが、その前提として、追体験したくなるような「快感」を描きこむ文章力がないと成り立ちません。

 

犬:なるほど。となると、その「快感」の見せ所であるベッドシーンの巧さが重要になってくるんですね。

 

松村先生:いや、官能小説が爛熟期を迎えた今となっては、ベッドシーンがうまいことはもはや前提なんですよね。だから、今どきの作家さんたちは誰もがベッドシーンに必殺技を持っている。「あの作家さんに太ももを扱わせたらピカイチ」だとか、「お口の奉仕を書かせるなら、やっぱりあの作家さんだ」とかね。

 

オオウエ:エロの異能バトルだ!(笑) それでは、僕たちの「必殺技」を先生に披露しましょうかね。まずは僕の書いたベッドシーンから添削お願いします!

 

 

(次ページ:お手並み拝見! まずはオオウエくんのベッドシーンを添削してもらおう)

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