ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第106回

ハクマン第106回
いまやだれでも
炎上する可能性がある。
漫画家はというと……?

高校時代に木を燃やしてなくても現在ひきこもりをやっているやつもここにいるが、前途ある若者ほど炎上が人生に与える影響はでかい。

しかし、炎上は誰が見ても怒られる悪ふざけだけではなく、本人的には「全くそんなつもりはなかった」ことで起こることも多い。

そんなつもりはなくても、本人の意識や知識不足で燃えているので本人のせいではあるのだが、誰しも全てのことに詳しいわけではないし、意識は最先端だが、語彙が戦前で止まっており無意識に使ってはいけない言葉を使ってしまうなど、偏りを持っているものだ。

つまり誰でもそんなつもりじゃなくても燃えてしまう可能性はある、ということだ。

特に私のように、年中コラムや Twitter で己のお気持ちを垂れ流している人間は危険だ。

「漫画家は漫画だけ描いていれば良い」という意見もある。
そんなことを言ったら会社員の人は会社にだけ行っておけという話になってしまい、SASUKEは「職業SASUKE」である山田克己さんしか出場できなくなってしまう。

誰でも己の考えを発言する権利はある。しかし「作品を守る」という意味では、表に出ていらん発言をしない方が無難といえる。
よって「こいつは言うこと全てがオイリーな上そこでタバコを吸おうとする」とわかっている作家は編集サイドが「SNSはやるな」と止めに入る場合もあるらしい。

だが基本的に作家はSNSをやるのに編集にお伺いを立てたりしないし、むしろ最近では編集側も作家本人がSNSで宣伝をすることを推奨していたりする。

しかし、作者の発言のせいで作品のイメージまで悪くなった例もなくはないだろう。
今まで漫画家はどのような炎上をしてきたのか、さっそく「漫画家はどんな炎上をしたのでしょう!調べて見ました!」というクソまとめサイトのようなことをしてきた。

調べて見ると、漫画家の炎上というのはそこまで多くない、ということがわかった。
言われるまでもなく、みんな漫画家だから漫画の方に専念しており、私のように Twitter の間に漫画を描いている奴の方が少ないからだろう。

さらに「漫画家特有の炎上」というのはもっと少なく、一番多いのは「トレスとパクリ」による炎上である。
パクリやトレスによる炎上は作家にとって悩ましい問題だ。
確かにあからさまなトレスや「海賊王を目指す少年が巨人と戦うオリジナルストーリーちな武器はチェンソー」のような話を出すのはまずいのだろうが、最初から元ネタがあることを前提とした「パロディ」という手法もあるし、資料を見て書くのもダメと言われると厳しいものがある。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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