ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第106回

ハクマン第106回
いまやだれでも
炎上する可能性がある。
漫画家はというと……?

資料を参考にしないということは自分で想像して描くことになり「何故江戸時代の背景モブがスマホいじりながら歩いているんだ」など、今度は整合性について物言いがつくことになってしまう。
そして今後は「AI」も漫画業界に参入してくるだろう。
AI絵も誰かが描いた絵を元にして描かれているため、AIを使用したことにより著作権的に燃えたり「AI使用疑惑」などで燃える可能性は十分にある。

しかしこれ以外で漫画家だからこその炎上というのはあまりない。
「最終回がひどすぎて炎上」というニュースはたびたびあるが、これは読者の意表を突きすぎてしまったというだけで、純粋な「悪事」をしたわけではない。
やはり寿司舐めのように、誰が見ても悪い「ご自由にお殴りください」のフリーボッコ状態、本人の人格まで全否定されてこその炎上という感じがする。

編集者や他の暴露話をして炎上というパターンもあるが、暴露による炎上はどこの業界でもある。

そしてあとは政治発言、差別発言などで、これはいよいよ作家であることは関係ないのだが、過去のヘイトスピーチでアニメ化がなくなったなどの事例もあるので、自分の発言による飛び火で作品まで燃やしたくないと思ったら、やはり漫画だけ描いておくのが最善である。
しかし漫画だけ描いていた結果、宣伝不足で読まれずに終わることもあるので難しい。

そもそも、人気作家は自分の名前や作品名で検索すると、良くも悪くも死ぬほど自分たちのことについて言及されているため、メンタルを守るためにSNSはもちろんネットも見ない、という人も少なくないようだ。

確かに私が1秒間に10回エゴサできるのも、引っかかる件数が少なすぎるからであり、これが2万件とかになったら、それを読むのに1日使うし、普通に病む。

つまり、エゴサができなくなるぐらいなら、売れないぐらいでちょうどいいんじゃないだろうか。

そんなわけないだろう、売れた方がいいに決まっている、エゴサのしすぎてついに頭がおかしくなったのかもしれない。

「ハクマン」第106回

(つづく)
次回更新予定日 2023-4-25

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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