ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第109回

ハクマン第109回
某作家と対談をすることに。
俺より売れてる奴とは
口をききたくなかったのに……。

6月に新刊が出るので、その販促として先日某作家と対談を行った。

相手の詳細はまだ言えないが Twitter のフォロワー数は私の3倍近くある、とだけ言っておこう。

よってこの企画を持ち掛けられたとき「俺は俺より売れている奴となんて口をききたくない」という竹を粉砕したような理由で断ろうと思った。
そもそも、平素からこれだけ他人のサクセスが嫌い、今サクセスしていない作家もどうせその内サクセスするので同業とは極力関わらないようにしている、と公言しているのにまだこんな企画を持ってくる編集がいることに驚きだ。

小麦アレルギーの作家との打ち合わせを丸亀製麺に設定するようなものであり、むしろ積極的に殺しにかかっている。

確かに、ギャグ以外でこんなにも堂々と他人のサクセスが許せないなどという大人がいるとは夢にも思わないのかもしれない。
その度に「ここにいるよ」と作画横山光輝の青山テルマになって相手を両断しているのに、まだそれが伝わっていないようである。
もしかしたら相手を両断しているため伝える奴がいないせいかもしない
映画でも自分の恐ろしさを伝えるために、あえて捕虜を痛めつけるだけで殺さず帰すシーンがある。
よって私も今度同じことがあったら「半殺しで放流」という手段で行こうと思う。

このように「断る」ということは瞬時に決めたのだが、基本的に私はメールをすぐに返さない。
その結果、私が返事を出す前に「先方には快諾いただけました、つきましては日時はいつにしましょう」という、開催はほぼ決定、すでに日時を決める段階になっているメールがやってきた。

「いつからお前に決定権があると錯覚していた」という奴である。
確かに、ビッグネームの方がOKすればそれはもう「決定」ということである。

そもそも本の販促に無名VS無名というカードを組むようなら、どちらにしても編集者としての才はないので足を洗うべきだ。

この期に及んで断るということもできなくはなかったが、私は「売れている作家」の「売れている」という事象をすべからく憎んでいるだけであって、作家個人が嫌いなわけではない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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