ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第11回
〆切が格段に速くなり、
俺たち歩合給が生死の縁を彷徨うのだ。
これを書いているのが5月7日である。
つまり、過去最長のGW(ガッデムウイーク)が終わり、会社員が「会社か涅槃か」の二択を迫られている日だ。
私のようなノージョブからすれば、我々不安定給の民が安定と引き換えに手に入れた、「休み」という葉っぱを栽培している村に、いきなり大群で押しかけ、お葉っぱ様を吸いつくした月給で厚生年金の鬼が、やっと自分らの山に帰った日という感じだ。
会社勤めの人からすると、朝決まった時間に会社に行かなくていいだけでフリーランスを羨ましく思うかもしれないが、9年くらい、会社員とフリーランス両方やっていた者からすると、会社員とフリーランスには両方良いところがある。
逆に言うと、両方良いところがなく、どっちも地獄、ということだ。
血の池地獄と、針山地獄ぐらいの差しかないのに、何せ「隣の地獄はゆるく見える」ため「あの血の池地獄、実はミネストローネなのでは?」とか「あの針、毛先が球じゃん?」と思い合っているだけなのである。
私は去年「地獄を一個に絞った」わけだが、二つの地獄を反復横飛びしていた時より楽になったかというと、一つに絞った分「濃度が上がった」ため、何ら変わりない地獄だ。
仕事はあってもなくてもどこでも地獄、まずそう思うことが大事だ。
「どこかに天国があるに違いない」と思うから辛くなるのである。
それに、ノージョブたちにとっても「連休」というのは全く無関係ではなく、相当な影響を受ける。しかも影響を受ける理由が「イエスジョブたちが健やかに連休を過ごすため」なのである。
「年末進行」「お盆進行」という言葉をご存じだろうか。
会社が長期の休みに入る前になると、作家たちは原稿を大幅に前倒しで描かなければいけないのだ。つまり会社側都合で、〆切がいつもより格段に早くなるのである。
月給どもが心置きなく休めるように、俺たち歩合給が生死の縁を彷徨うという、不条理サスペンスストーリーが連休のたびに行われているのだ。