ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第118回

「ハクマン」第118回
Xは治安が悪いが、
なぜかネタバレに関しては
紳士的である

進撃の巨人トークになっても「進撃の巨人なら9巻まで読んだからちょっと知ってます」と言った時点で相手は「貴様と話せることは何もない」と口を噤み、そこで話が終わってしまう。
「ワタシ、ニホンゴ、スコシシャベレマス」という片言の外国人に「国に帰れ」と言うぐらい塩だと思ったが、それも進撃の巨人をラスト近くまで履修した今ならわかる。

進撃の巨人は初期から複雑な伏線が張られた話なので、全て読んだ人間にとって「9巻までの知識しかない奴と進撃の巨人の話をしろ」というのは「両手両足を縛った状態で相撲取ろうぜ!」と誘われるぐらいやりづらい提案だったとわかる。

しかし「ネタバレに全く考慮しなくていい」という前提なら、「これで勝つる!」となっているエレンの背後から現れた超大型巨人のように9巻野郎を蹂躙することができただろう。
自分自身で進撃の巨人のストーリーを追っている今、ネタバレを避けてくれた識者たちには感謝している。

だが、正直全くネタバレを見ずに来たわけでもない。
私は所詮、キャラ萌えクソオタクなので、ストーリーは追っていなくても「憎からず思っていたあのキャラはどうなったのか」というのは気になってしまうのだ。

よって死亡キャラに関するネタバレだけは見てしまっており、今ではそれを後悔している。
そもそもキャラの生死というのはよほどのナレ死を遂げてない限りは物語に大きくかかわっているので、同時にストーリーのネタバレを見てしまう確率が高いのだ。
事前にキャラの生死を知ることで衝撃に耐性がついて安心して見られるというのもあるが、やはり物語というのは何も知らない状態で見た方が面白いし、知らないから先の展開にワクワクするのだ。

ただし「犬猫の生死を事前に確かめる」という行為は例外である。
これは食おうと思っているものにアレルギー物質が入っていないかどうか調べる検査なのだ。甲殻アレルギーの人が「エビ入っているけど美味そうだから食ってみよ!」とチャレンジ精神を発揮しないように、私はおキャット様が亡くなる映画はどれだけ名作でも見ないので、そこのネタバレは遠慮なくしてほしいと思っている。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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