ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第125回

「ハクマン」第125回
電柱工事のためこれから
我が家は停電するらしい。
この真冬に正気の沙汰ではない。

しかし今年は催促が早い気がする、何せまだ確定申告の提出期間にすらなっていない。
この「提出期間に入ってから始める」という発想自体、常人からすれば発射後にゴムをつけるレベルの遅きに失す、なのかもしれないが、例年よりは確実に早い。
もしかしたら、これはインボイス制度の影響なのかもしれない。

インボイス制度の大きな影響を受けるのは主に我々フリーランスと言われているが私個人としてはまださほど具体的な影響は受けてはおらず、それより税理士や、会社の経理など会計を生業とする人の方が先んじて影響を受けているような気がする。

未だにインボイス制度のことを正確に理解できてはいないが、会計業務が今までより煩雑になったということだけは確かである。
制度が実施されて初めての確定申告を前に、税理士側としては「いつもより前倒しでやらないと間に合わない」ということなのかもしれない。

いくら自分が巻きでやろうとしても、クライアントがなかなか書類を出さないボケナスでは話にならず、税を脱していた時「税理士に任せていた」など、真っ先に罪を着せられるのだから、税理士も大変である。

ちなみに「税理士に任せていた」は完全に嘘というわけではなく、税理士に所得を報告しない、または存在しないはずの経費を申告し「あとは任せる」と、確かに不正申告書が完成するのだ。
会社に常駐しているような税理士なら気づくだろうが、末端の個人のクライアントから送られる資料だけを信じて申告書を作る税理士にはそこまでわからないと思う。

よって正確な申告と納税を促すのもインボイス制度が実施された理由の一つだと思うのだが、それを言い出した側が4000万以下なら申告漏れでも不起訴だったり、一定額領収書なしで経費を使えて差額を返す必要もないという謎ルールを保持しているので、国民の納税意欲がますます下がるのである。

ほどなくして停電が始まる、意外と停電前に原稿を終えることができた。 しかし、肝心のクソを忘れた、今から2時間強、私のクソ我慢伝説のはじまりである。

「ハクマン」第125回

(つづく)
次回更新予定日 2024-2-28

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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