ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第13回
漫画家は〆切があるから描く。
漫画も登山も同じことだ。
現在、秋ごろの開始を目標に、漫画の新連載の準備中だ。
よって読者の皆様にはぜひ「秋に新連載が始まるんだな」と思わないで欲しい。
何故なら、作家は「これから考える」という段階ですら「準備中」と言ったりするのだ。
よって、読者は好きな作家が「新連載準備中です」などとツイッターでつぶやいていても「すぐに新連載が始まるのだな」とは思わない方が良い。
秋ごろと言っていたら「これは令和3年の秋のことを言っているな」ぐらいの感覚でいた方がお互い誤解がない。
もちろんそのままフェードアウトすることなく、新連載自体はちゃんと始まる場合も多いが、開始まで思った以上に時間がかかってしまった、ということもよくあるのだ。
連載の依頼というのは2種類あり、まず1つ目は「この号から何か新連載してください」だ。
とりあえず、始まることだけが決定しており、描くことはその期限までに考えろという、予告が載った後にドラえもんを描いたという、藤子・F・不二雄方式だ。
準備期間が限られているという点では厳しいが、最初から「連載決定」しているという点は作家としてありがたいところもある
もう一つは「連載を始める」というより「連載を目指す」方式だ。
いつ始まるかなどは全く決まっておらず、まず作家が案を出し、それに担当編集、編集長がOKを出して、初めて連載決定となるタイプだ。
「令和3年の秋」になりがちなのは、もちろんこちらである。
なかなか案にOKが出ない、ということもあるが、そもそも「作家が描いてこねえ」ということもある。
「何故描かないか」と問われたら「そこに〆切がないからだ」としか言いようがない。
登山家は山があるから登る、つまりなければ登らない。漫画も登山も同じことだ。
もちろん、登る気はあっても、単純に作家が途中で餓死するというパターンもある。
当然だが「準備」には報酬が発生しないので、いつまでも「準備中」だと普通に死ぬのだ。
また、準備の工程には「脳内でひたすらありもしないことを空想する」「己と対話する」などが含まれるため、作家が心を骨折し、何も考えられなくなる、ということもある。