ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第140回

「ハクマン」第140回
「インボイス」問題は
まだ始まったばかりということを
忘れていないか?

それに6年経つと我々は6歳年を取っている。

6年の間にインボイスに反対していた連中が全員死ぬとは思えないが、私などは初老である。

6年前と同じテンションで反対ができるとは思えないし、そもそも「収入がないからインボイスも関係なく、反対する意味もない」という事態に陥っている可能性がある。

政策との戦いはある意味人間VSエルフなのだ。

個人は100年もすれば滅するが、国は何だかんだでなかなか滅ばないので、持久戦に持ち込まれると勝てないのである。

唯一勝ち目があるとしたら、意志と戦う勇気を、これからの世代に託し続けていくしかない。

インボイスの話をしていたはずが、いつのまにか葬送のフリーレソについて熱く語るオタクみたいになってきた。

しかし逆に言えば我々は全員勇者ヒンメノレということだ。出版社から来るインボイス持っているなら教えろ、という封書をシカトするたびに「勇者ヒンメノレだからそうする」と言ってよい。

ちなみに、業務上必要でない限り、フリーランスに「インボイス取った?」と聞くのは完全にハラスメントなのでやめた方がいい。

どれだけ全裸で外に出たい人でも、本当に出てしまう人は一握りである。その法律に反対だとしても、それが現在の法である以上守らざるを得ないからだ。

全裸違法に反対なら逮捕されてでも全裸で外に出るべきであり、服を着るのはダブスタだと責めるのは酷である。

インボイスには反対でも、施行された以上取得している人もいる。それを暴いて裏切り者だと糾弾するのは完全に仲間割れであり、むしろ真に戦う相手の思うつぼだ。

「インボイス」は「パンツの色」の隠語だと思ってほしい。不用意に他人に尋ねることではない。

「ハクマン」第140回

(つづく)
次回更新予定日 2024-10-9

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

真梨幸子『ウバステ』
榎本憲男『エアー3.0』