ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第140回

「ハクマン」第140回
「インボイス」問題は
まだ始まったばかりということを
忘れていないか?

インボイス制度が始まると、インボイスを発行できないフリーランスが仕事を干される、報酬を減らされる、または本来なら支払わなくてよい税金を支払う羽目になる、というのが、フリーランスがインボイスに反対する主な理由だったのではないかと思う。

それらが起こったかというと、私個人に関しては起こっていないのだ。

少なくともインボイスが始まってから原稿料を減らされたり、税金が増えたということはない。

ただ仕事の減少に関しては正直こちらからはわからない。例え出版社側がインボイスの有無で発注を決めていたとしても、こちらからは伺い知ることはできない。

ただ、インボイス制度が始まってから、連載が立て続けに切られたということはないし、そうなったとしてもインボイスは無関係でただの不人気と言われたら納得の範囲である。

結局、お前らが大げさに騒いでいただけ、と思うかもしれないが、影響が少ないのは、私が一応漫画業界の人間だからだろう。

インボイス施行直前には大規模な反対活動が起き、特に漫画家の反対は多かった。

だが反対署名も何十万と集まったが、結局普通に施行されてしまい、やはり決まってから反対してもダメだなと思っていた。

しかし、識者は、漫画家がこぞって反対したから、大体の出版社はインボイスの取得を作家に要請などせず、インボイス未発行により税控除できない分は会社が被るという方針を取る方向になったとも分析しているので、反対活動も全く無駄ではなかったのかもしれない。

しかし、漫画家が国に向けたはずの矢が、出版社にぶっ刺さっているという状況であり、「漫画でわかるインボイス制度!」を描いて小当たりする奴がでない限り漫画業界で得した奴はいないし、トータルで見ると完全に損している。

また現在あまり影響を感じないのは「猶予期間中」だからとも言われている。

インボイス制度は完全に施行されるまで6年猶予があるそうだ。

これを知ったのは最近なので、ますますよくわからないまま騒いでた感が強くなってしまったが、現在インボイス未発行でも8割税控除可能で、これが5割、全額と、6年かけてスライドしていくようだ。

これは激変緩和措置ではあるが、同時にゆっくり諦めさせているとも言える。

消費税だっていきなり10%になったら国民はブチ切れ金剛でありDAIGOのプロフィールに「親戚で集まっている時暴徒が乱入してきたことがある」というエピソードが追加されていたかもしれない。

しかし3%から始まり、5%、8%と増えて、10%になるころには若干諦めムードだった感は否めない。

 
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

真梨幸子『ウバステ』
榎本憲男『エアー3.0』