ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第160回

異動となった担当編集者が
新担当を引き連れ
あいさつに来ると言い出した。
同じ秘境でも私がバミューダトライアングル中央の住民なら「ぜひ来てくれ」と言うところだが、残念ながら「主要建造物イオソ」のどこにでもある田舎にすぎない。
つまり、自分に会いにくるためだけに飛行機や新幹線で数時間、数万円かけて来られるというのは重いのだ、気を遣っている風でこちらに重圧をかけていることに気づいていないところが最高に編集者という感じで好感が持てる。
こういうことをするのは大体大手であり、経費がふんだんに使えるというのもあるだろうが、メンタルがそうなっているとしか言いようがない。
だがそれでも、顔合わせや打ち合わせ、あいさつだけのために、編集者が重鎮でもない作家に会うために僻地までくるというのは稀だろう。
来るとしたら、何かしら重大なことが起きた時であり、一番考えられるのは「詫び」である。
原稿ロストなどシャレにならない過失が起こった時の詫びはさすがにリモートでは済まされず、直接が多いのではないかと思われる。
確かに私は編集者に対し「何でもいいから常に詫びててほしい」と思ってはいるが、具体的に詫びられる事案は思いつかない。
次に考えられるのは「連載終了のお知らせ」である。
これも滅びつつある文化だとは思うが、何故か連載の終了はメールなどではなく、直接お伝えするのが仁義であるみたいな考えが昔はあった。
特にこのS学館担当には前科があり、数年前打ち合わせと称して、我が村にやってきたかと思ったら、その当時連載していた漫画の終了を告知してきたことがある。
今回もたかが担当者交代のために、わざわざ来るというのはおかしい。むしろ「担当者異動を機に終了」という、なさそうで結構ある話をしに来るのではないか。
そういう話ならメールで済ませてくれと言いたいが、あくまで名目が担当交代の挨拶なのでこっちから言い出しづらいのも最悪である。
その後、私の地元でありながら私のセンスは一切信用していないとばかりに、自分で現地の店を予約した担当が、新担当を伴ってやってきた。
もし連載終了だとしたら、この新担当は何をしに来たのだろうか、そもそも編集者なのかどうかも怪しい。
食事の最後の方になってから、終了のお知らせをされるのも嫌なので、開幕してすぐに「終わるのか」と聞いたら、意外にもそうではない、と言い出した。
その後も特に重大事項が語られることなく、会合は終わり、結局何をしにきたのか最後まで不明であったが、そういえば「先生とは私が新卒の時から10年以上のお付き合いで最後にぜひお会いしたい」と最初に言っていたような気がする。
まさかそれが本当とは思わなかった。

(つづく)
次回更新予定日 2026-1-14
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