ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第36回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第36回

どのように作家が
コロナの影響を受け死んだかを
記しておきたいと思う。

地方書店が営業していてもそこにはなく、仮に注文があっても、休業中の書店の中にまだ在庫が死蔵されたままだったりするので「版元在庫なしで注文不可」という返事になってしまったりする。

そうなると頼みの綱は通販になるが、現在通販もコロナの影響で日用品優先のため、本は在庫がなくなったら補充されないという状態が続いている。

私の新刊も発売2週間程度で主要ネット書店では買えなくなり、現在もネットではほぼ購入できない状態である。

ビッグタイトルなら初回でも大量入荷するのでそう簡単には在庫切れを起こさないが、私のような丁稚作家は初回入荷数が少ない。それがなくなれば追加納入となるが、今回はそれがないため「通販」というルートも早々に断たれてしまったワケでゲス。

つまり、私が初版部数の少ない。三下奴木っ端丁稚作家なのが悪い。

結論が出てしまったが、買えるルートが平素より絞られていることにより買いたかった人(未確認)が買えなかったかもしれない。
私はともかく、本来伸びるはずだった部数の少ない新人が、コロナのせいで機を逸した可能性は大いにある。

次に、出版社の対応だが、このような特殊状態での売上を、平素の売上ラインで判断して切るのは早計なのではないか、という話だ。

私も当初はそう思った、お前らをコロナじゃない死因で全員鬼籍に入れてやろうかと思った。

しかし、不本意ながら考えれば考えるほど、判断的に間違っているわけではないのだ。

何故なら「コロナの影響で売れなかった」というのが事実だとしても「コロナが去れば巻き返せる」というものでもないからだ。

今後コロナの影響がなくなり書店が完全復活しても、本は既に発売してから数か月経ってしまっているのだ。
書店が、新刊でも売れ筋でもない本を面だしで売るというのはあまりないため「お、これ面白そうじゃん」と、表紙やPOPを見てジャケ買いしてくれるセンスのない一見客は見込めなくなる。
それどころか、入荷から1か月ぐらい経った本は「版元へ返品ムーブ」に入ってしまうのだ。
書店が再開されても売ってもらえるどころか「死んでた本が返本されるだけ」という可能性が高い。

「新刊は発売1か月が勝負」と言われるのはそのためである。
つまりその大切な発売1か月が「コロナにモロかぶり」して数字が出せなかった作品はコロナが終息したとしても、よほど何かで注目されない限り挽回は難しいということになってしまう。
2巻は1巻の部数を元に発行されるため1巻が重版しなければ、もちろん2巻の部数は減り、置かれる書店も減るため、さらに売れる機会がなくなる。そもそも2巻から買う迂闊な奴はそうそういない。
今は口コミ社会なので発売から時間が経ってからネットでバズって売れるということもあるが、それでも「2巻から売れ出した」というのは相当なレアケースなのである。

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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