ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第38回

ハクマン 部屋と締切(デッドエンド)と私 第38回

最近の漫画業界の
餓死スピードは速い。
どう考えるべきなのか。

最近では、1巻どころか、1話目の4ページで読者に「これは死ぬほど面白い漫画だ」とわからせなければいけなくなっている。

何故なら最近は、インターネットやSNSに漫画の1話目を無料公開するのが当たり前であり、その1話目がバズるか否か、というのは生死をわけるレベルで重要だからだ。
よって1話目の時点で作品のコンセプトを読者に全てわからせた上で面白い、最悪でも「続きが気になる」と思わせなければ、山ほどある漫画の中に埋もれてしまうのである。

さらにツイッターで投稿できる画像の枚数は4ページまでである、その最初の4ページがバズらなければ当然続きも読んでもらえない。
AV業界が出会って4秒で合体しはじめたように、漫画業界も4ページで読者を絶頂させなければいけないフェーズにきているのだ。

ラノベなどに至っては、冒頭どころかタイトルの時点で、興味を引けるかどうかという勝負になりつつある。

最近はとにかくプロアマ含め漫画の数が多いので、ロケットスタートで目立てなければ、そのまま埋もれてしまうということが多いため、最初で反応が悪ければ様子見さえされず切られてしまうのである。

不人気作品が切られるスピードも上がっているのはもちろんだが、最近では人気作品ですら、無理な引き延ばしをしなくなっている。

「鬼滅の刃」が人気絶頂の内に幕を閉じたのは記憶に新しいだろう。
昔であれば「ドラゴンボール現象」と言われるように、人気がある内は、どんどん強い敵を出し、悟空をさらに成長させ、ヤムチャはそのままにする、という、無限ループが展開されていた。

しかしそれは「こいつが死んだら年金がもらえなくなる」という理由で、ジジイの心臓を機械で無理矢理ビートさせているような、不健全な状態であり、最終的に読者にさえ「あの時終わってれば良かったのに」と思われる有様になってしまう。

年々先細るジジイの年金に固執するよりは、良いところで死なせて、次のもっと年金額が高いジジイを見つけたほうが良いという「回転率」を重視するようになってきたように見える。

つまり、人気作は人気の内に終わらせて、また新しい人気作をはじめさせた方が良い、という方向になってきているような気がする。

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カレー沢薫(かれーざわ・かおる)

漫画家、エッセイスト。漫画『クレムリン』でデビュー。 エッセイ作品に『負ける技術』『ブスの本懐』(太田出版)など多数。

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